歴史の終わり(と最後の人間)

このタイトルを見れば、人類の滅亡による人類史の終わりの意味と思ってしまいそうですが、・〜その方がまだずっと読む価値はありそうなのですが〜・そうではありません。資本主義と民主主義こそ人類の歴史の到達点だという主張です。それも、1つの通過目標ではなく、最終到達点だと言うのです。ユートピアが実現した社会制度の完成形で、社会の平和と自由と安定が無期限に維持されるというのです。
20世紀末のソビエト連邦の崩壊を見た、元アメリカ国務省の職員の日系人、現在、政治経済学者の肩書きを持つフランシス・フクヤマ氏による、社会制度の進歩の終結宣言を著した、1992年に発行された彼の著作物のタイトルです。つまり、彼によると、20世紀の終わりに、世界は社会制度の歴史の到達点:資本主義と民主主義に達したというのです。
ここでその書評を書くのか・・・と言えば、そうではありません。読む気は毛頭無く、読んでいませんから。
この著作物の存在を知ったのは、2007年に購入して読んだ『暴走する文明 A Shoet History Of Progress』に書かれていたからです。こちらは抜群に気に入り、その後繰り返し読んでいますが、この著者、ロナルド・ライトも本書でフクヤマの「歴史の終わり・・」を批判していました。
曰く、「資本主義と民主主義は必ずしもパートナーではない。フクヤマの単純な自己賛美は、私利私欲が見え隠れし、かつての帝国が推し進めた宣教活動に似ている。」
この、ロナルド・ライトの指摘は非常に的を射ていると思います。だから「歴史の終わり・・」は全く読む気はしませんでした。
こんな短絡的な思考の持ち主が、アメリカ政府の要職に就いていた事に驚きました。それも、このおバカな「歴史の終わり・・」はかなり支持されたようです。アメリカのネオコン、資本家にとって利用価値のある理論だったのでしょう。
単に、20世紀末に「自由主義・資本主義が共産主義に勝利した事実から正しい」というだけの根拠に感じます。 ソビエト連邦の共産主義は崩壊した・・・と言う事実を、拡大解釈しただけでしょう。
確かに共産主義が理想とも思えません。ソビエト連邦は、建国から崩壊の時期まで、多数の国民にとっても、他国にとってもいい国では無かったでしょう。しかし、崩壊して、資本主義社会の仲間入りした現在のロシアの方が、ソビエト連邦よりもまともな国だとフクヤマ氏自身思っているのでしょうか?・・ウクライナ侵攻したプーチンのロシアは「東側」の国であっても、もはや共産主義国家ではありません。ソビエト連邦が崩壊した20世紀末に資本主義国家の仲間入りを果たしたのです。
仮に、自由経済圏の仲間入りを果たした現在のロシアが、ソ連時代よりも素晴らしい国家に生まれ変わっていたとしても、何故それが安定した平和な歴史の到達点と言えるのでしょうか? まだまだ短い人類の進化の歴史[A Shoet History Of Progress]においての通過点に過ぎないのです。少なくとも今世紀中に顕著な深刻な危機となるであろう、人口爆発、エネルギー不足、環境破壊・汚染、格差の問題・・・・等を全てクリアして、それが最低数百年は持続しなければ・・・若しくはその可能性が十分に高くなければ、安定した平和な理想の境地に到達したとは言えないでしょう。・・それは非常に困難な事であり、現在の資本主義を考えれば、そんな最終到達点に至る筈も無いでしょう。
Wikipedia によると、フランシス・フクヤマは、『ネオコンの代表的な理論家であったが、現在はネオコンとはある程度距離を置く』・・とあります。しかし、未だに資本主義の御用学者の類だと思われます。
今年、ウクライナ戦争が始まってからのNHKのインタビューがありましたので読んでみました。

「世界の民主主義はどこへ行く フランシス・フクヤマ」
今回のロシアによるウクライナ侵攻は、明らかに彼の「歴史の終わり」宣言に矛盾する事でしょう。
インタビュアーは、
「プーチン大統領がやっていることは「歴史の終わり」への挑戦と考えますか。」
なんておかしな形の質問でインタビューを開始しています。それに対してフクヤマ氏も、自分の宣言の誤りの反省もせずに、
「戦争の結果がどうなるかにもよります。」
なんて、曖昧な答えかたをしています。彼の宣言では、歴史は最終到達点に達して、世界は安定していたのでは無かったのでしょうか?
以下、その辺の誰でも言えるような事しか言ってなくて、読む価値のないものでした。今はきっとバイデン政権の御用学者かなんかなのでしょう。
現在日本で問題になっている勝共連合と似たようなレベルだと思いました。
日本やアメリカに限らず、世界中こんな御用学者の理論で政治が動かされているんじゃないかと思います。
こりゃあ、持続可能な社会に移行するのは無理だろうな・・・と悲観してしまいます。
余談ですが、この本のタイトルの最後の “and the Last Man” の意味が全くわかりません。(「人類史の終わり」という意味ならわかるんですが、「社会制度の終わり」と言う意味では繋がりそうにありません。)不明過ぎます。どなたかお分かりでしたらお教えください。

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