どちらの効率を優先すべきか?
一つは、「熱効率」「(自動車等の)燃費」「発電効率」のように投入されるエネルギーに対して、仕事をするエネルギーに変換される割合です。そこから、同じ仕事をするときの消費エネルギーの少なさという意味になっています。
そしてもう一つの『効率』は、単位時間内にできる仕事の量です。
時と場合に応じて、どちらの「効率」もよく使われていますが、この二つは、しばしばトレードオフの関係にあります。すなわち、エネルギー効率を追求すると時間的効率が悪くなり、逆に時間的効率を追求すると、エネルギー効率は悪くなる傾向があります。
簡単な例を挙げますと、「移動」があります。 同じ距離を自動車で行く場合と自転車で行く場合を比べれば明らかでしょう。
試算してみます。100kmの道のりを自動車で行けば、一般道を渋滞もなくスムーズに行けた場合、およそ2時間で、ガソリン車なら、5〜10ℓくらいを消費します。計算が楽なように8ℓとしましょう。
ガソリンの燃焼エネルギーを
10000kcal/ℓ として カロリーに換算すると
8ℓ×10000kcal/ℓ =80000kcal 消費します。
この道のりを自転車であまりスピードを出さずに普通に走れば、5〜10時間くらいかかりますが、計算が楽なように(笑)8時間としましょう。この平均時速12.5km/h なら途中で休憩しても達成できます。
費やすエネルギーは人力です。多めに見積もって、
1000kcal/day ≒ 40kcal/h として、
40kcal/h ×8h=320kcal 消費します。

まとめると次のようになります。
時間 エネルギー使用量
自動車移動 2h 80000kcal
自転車移動 8h 320 kcal
自転車移動は、自動車移動に比べて
時間は4倍かかりますから時間効率は4分の1ということになります。
(これは、普段自転車に乗っている自分自身の経験的には、自転車の時間がかかり過ぎる計算になります。
隣町などに行く場合[15km程度]、自転車で行く場合に要する時間は自動車で要する車の時間の2〜3倍程度です。)
しかし、費やすエネルギーは
320/80000 =1/250 です。つまり、自転車移動は、自動車移動に比べて、エネルギー効率は250倍もいいのです。
現代人は、自転車を漕いでいなくても基礎代謝でエネルギーは常に使っています。屋内で、移動しない自転車を漕いで、運動したりダイエットしたりしてエネルギーを浪費していることも考慮すれば、自転車で費やす人力のエネルギーは0と考えることもできます。実際、現在のエネルギー統計では、人間の労力、人力は、エネルギー消費とみなされていません。すなわち、人力を投入エネルギーとみなさなければ、人力による自転車移動は消費エネルギーは0です。
現代は、エネルギー効率よりも時間の効率が重視される場合がしばしばです。しかし、SDGsなどと言って、環境に配慮することが重要視されているのですから、基本に戻り、エネルギー効率を重視するべきでしょう。
何故に現代はエネルギー効率よりもエネルギー効率を優先するようになってきたかと言えば、それはまさしく競争社会、資本主義の根幹とも言うべき、拡大再生産にあるでしょう。
記事【資本主義は破壊の因子《前編》 〜資本主義の根幹〜】2022/11/19
で論じている通りです。
資本主義社会では、物資やサービスの拡大再生産のためにはエネルギーさえも拡大再生産しなければならなかったのです。それはSDGsの “D” の文字「Development:開発」にも現れています。「開発」は拡大再生産に繋がり、経済成長を目標とします。エネルギー効率を悪くしてまでも、時間効率をよくしようとする傾向のあるSDGs はその言葉とは裏腹に「持続可能」ではないのです。限界のある地球上では、SD:Sustainable Development[持続可能な開発] なんて出来るはずもないのです。
S:Sustainable を目指すのならば、時間効率を目指すのは止め、エネルギー効率を重視すべきですが、競争社会の資本主義ではそれを望むべくも無いでしょう。
この記事はかなり以前の記事
【2つの効率】2008/10/25
に定量的な部分を加えてやや別の角度から書いた記事です。
各場合の使用エネルギーの量、エネルギーの変換などに関する定量的な部分に関しては、
石川英輔氏の著書
大江戸エネルギー事情、大江戸省エネ事情
などを参考にさせて戴きました。


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