オーバーシュート

日本の人口の長期推移/社会実情データ図録 より
日本の人口の長期推移のグラフは遠い過去のデータは推測値でしょう。もちろん、将来のデータも予測値です。推測値も予測値も定量的にはあまり当てにはなりませんが、人口の増減の傾向は、大筋で合っていると考えてもいいでしょう。
このグラフから、大抵の人が読み取ることは、日本は近代、明治維新以来、人口は超指数関数的に爆発的に増え続け、20世紀終わり頃から増加率が減り始めて、2006年にピークとなり、その後、減少に転じたと言うことでしょう。これからの人口はどんどんと減っていく予測となっています。

北海のタラの量 勝川公式サイトより
次は現在、壊滅が心配されている北海のタラの量の推移のグラフです。1970年頃は大量にいたタラが、その頃をピークに、増減を繰り返しながらも全体としてずっと減少してきました。危機的状況です。
以上の二つのグラフは、オーバーシュートの例です。
オーバーシュート[Overshoot]とは、「行き過ぎ」を意味します。限界を超えてしまうことです。自動車でスピードを出し過ぎてカーブを曲がり切れなかったり、エレベーターで定員以上が乗って上に上らなくなくなったり、お酒を飲み過ぎて、理性を失ったり・・・様々なオーバーシュートがあります。
ここで論じるオーバーシュートも大きく捉えれば、上に挙げたような例も含みますが、さらに限定して、「成長の限界を超えて、持続不可能になった場合」とします。
オーバーシュートについて、よくある認識不足は、
「持続可能な限界を超えて成長してしまったら、減少して、平衡状態の限界に戻るだけ」と言うものです。以前ここのブログでも、そのような反論をいただいた事があります。
ちょっと考えれば、これは間違いであるとすぐに気付くでしょう。すなわち、持続可能な限界を超えても成長を続けることは可能ですが、限界を超えた時期が長引けば長引くほど、限界は低くなるのです。
北海のタラは、持続可能な限界を超えて捕り過ぎたから、卵を産む個体の数が減ったなどの理由によって、タラ漁が壊滅するかと思えるほど、減ってしまいました。「平衡状態」の限界自体が下がってきたのです。ずっと以前から持続可能な限界を超え無いように漁を制限していれば、ここまで限界値は下がらずに、いまだにもっと大量のタラを獲ることができた可能性は高いでしょう。
次の4つのグラフは、『成長の限界』シリーズに毎回載っているグラフです。(毎回少しずつアップデートされてきました。)
横軸は時間で、縦軸が数量です。実線が、人口なり、物質経済の量、破線が、その収容力です。収容力は持続可能な限界と考えることができるでしょう。

左上のグラフは、時間と共に収容力が増える場合です。農地を開墾していた時代や、大航海時代のヨーロッパでの資源や食糧生産、人口などは、このように考え得るでしょう。しかし、地球全体で考えれば、収容力は増え続けることはないでしょう。それなのに、収量力を技術力でずっと増やすことができる・・と洗脳されている人で溢れているのが現代の科学万能主義の賜物です。
確かに技術である程度までは収容力を引き上げる事はできるでしょうが、有限の地球で永続的に引き上げ続けることは不可能です。
有限の地球全体で考えれば、右上のグラフのように、収容力は一定と考えるのが一般には妥当な考え方でしょう。この時のS字型の成長は、ロジスティック関数と言う、限界値が一定の下では、理に適った関数です。環境が破壊されたりせずに安定した状態では、ある程度現実を反映したモデルと言えるでしょう。
しかし、人口なり経済が限界を超えて増加した場合、北海のタラの例でも説明しましたように、収容力、すなわち持続可能な限界値は下がるのです。つまり、下の2つのグラフのようになると考えられるのです。
左下のグラフは、持続可能な限界を越えると、収容力は減少をはじめ、持続可能な限界以下に戻ると、収容力が増加を始めるという振動のグラフです。
漁獲量などを制限して、漁業資源を守ろうとしていることなどは、このようなグラフを想定しているのでしょう。漁獲量を再生量以下に厳しく制限すると、魚は増え、漁を解禁して獲り過ぎるとまた魚が減るというグラフです。これは間違いではないのですが、重要な事を考慮しなければなりません。それは「フィードバックの遅れ」です。持続可能な限界以下に戻っても、すぐに増加を始めるわけではなく、しばらくは減少を続けるのです。資源の回復はそんなに早くはないのです。「自然は破壊するのは簡単だけれど、回復するのは時間がかかる」・・・と言われる所以です。
一番気を付けなければならないパターンは、右下のグラフです。行き過ぎの状態が長く続くと、収容力の限界が下がり続けて、破局に至るのです。いろいろな種類の漁獲高のように資源の量が振動すると考えられているものでも、実は北海のタラのように、持続可能な限界値が以前よりもどんどん低くなって、行き過ぎから枯渇に至りそうな再生可能な資源は非常に多いのです。
現在、世界では、地球規模の行き過ぎから破局に至る危険のあるもの(資源)で溢れています。漁業や農業などの食糧生産、野生動物、森林、工業の原料、汚染物質のシンク、そして経済、人口・・・。
対策は、どれもみんな縮小する事以外にあるでしょうか?もう時間的、空間的余裕はほとんどないのです。

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