雑草の言葉

オーバーシュート

2023/01/07
脱成長 8
日本の人口の長期推移グラフ
日本の人口の長期推移/社会実情データ図録 より 
 
 日本の人口の長期推移のグラフは遠い過去のデータは推測値でしょう。もちろん、将来のデータも予測値です。推測値も予測値も定量的にはあまり当てにはなりませんが、人口の増減の傾向は、大筋で合っていると考えてもいいでしょう。
 このグラフから、大抵の人が読み取ることは、日本は近代、明治維新以来、人口は超指数関数的に爆発的に増え続け、20世紀終わり頃から増加率が減り始めて、2006年にピークとなり、その後、減少に転じたと言うことでしょう。これからの人口はどんどんと減っていく予測となっています。

北海のタラの資源量の推移
   北海のタラの量 勝川公式サイトより
 次は現在、壊滅が心配されている北海のタラの量の推移のグラフです。1970年頃は大量にいたタラが、その頃をピークに、増減を繰り返しながらも全体としてずっと減少してきました。危機的状況です。

 以上の二つのグラフは、オーバーシュートの例です。

 オーバーシュート[Overshoot]とは、「行き過ぎ」を意味します。限界を超えてしまうことです。自動車でスピードを出し過ぎてカーブを曲がり切れなかったり、エレベーターで定員以上が乗って上に上らなくなくなったり、お酒を飲み過ぎて、理性を失ったり・・・様々なオーバーシュートがあります。

 ここで論じるオーバーシュートも大きく捉えれば、上に挙げたような例も含みますが、さらに限定して、「成長の限界を超えて、持続不可能になった場合」とします。

 オーバーシュートについて、よくある認識不足は、
「持続可能な限界を超えて成長してしまったら、減少して、平衡状態の限界に戻るだけ」と言うもの
です。以前ここのブログでも、そのような反論をいただいた事があります。
 ちょっと考えれば、これは間違いであるとすぐに気付くでしょう。すなわち、持続可能な限界を超えても成長を続けることは可能ですが、限界を超えた時期が長引けば長引くほど、限界は低くなるのです。
 北海のタラは、持続可能な限界を超えて捕り過ぎたから、卵を産む個体の数が減ったなどの理由によって、タラ漁が壊滅するかと思えるほど、減ってしまいました。「平衡状態」の限界自体が下がってきたのです。ずっと以前から持続可能な限界を超え無いように漁を制限していれば、ここまで限界値は下がらずに、いまだにもっと大量のタラを獲ることができた可能性は高いでしょう。

 次の4つのグラフは、『成長の限界』シリーズに毎回載っているグラフです。(毎回少しずつアップデートされてきました。)
 横軸は時間で、縦軸が数量です。実線が、人口なり、物質経済の量、破線が、その収容力です。収容力は持続可能な限界と考えることができるでしょう。
限界に接近する際のモード2ndver

 左上のグラフは、時間と共に収容力が増える場合です。農地を開墾していた時代や、大航海時代のヨーロッパでの資源や食糧生産、人口などは、このように考え得るでしょう。しかし、地球全体で考えれば、収容力は増え続けることはないでしょう。それなのに、収量力を技術力でずっと増やすことができる・・と洗脳されている人で溢れているのが現代の科学万能主義の賜物です。
 確かに技術である程度までは収容力を引き上げる事はできるでしょうが、有限の地球で永続的に引き上げ続けることは不可能です。
 有限の地球全体で考えれば、右上のグラフのように、収容力は一定と考えるのが一般には妥当な考え方でしょう。この時のS字型の成長は、ロジスティック関数と言う、限界値が一定の下では、理に適った関数です。環境が破壊されたりせずに安定した状態では、ある程度現実を反映したモデルと言えるでしょう。

 しかし、人口なり経済が限界を超えて増加した場合、北海のタラの例でも説明しましたように、収容力、すなわち持続可能な限界値は下がるのです。つまり、下の2つのグラフのようになると考えられるのです。
 左下のグラフは、持続可能な限界を越えると、収容力は減少をはじめ、持続可能な限界以下に戻ると、収容力が増加を始めるという振動のグラフです。
 漁獲量などを制限して、漁業資源を守ろうとしていることなどは、このようなグラフを想定しているのでしょう。漁獲量を再生量以下に厳しく制限すると、魚は増え、漁を解禁して獲り過ぎるとまた魚が減るというグラフです。これは間違いではないのですが、重要な事を考慮しなければなりません。それは「フィードバックの遅れ」です。持続可能な限界以下に戻っても、すぐに増加を始めるわけではなく、しばらくは減少を続けるのです。資源の回復はそんなに早くはないのです。「自然は破壊するのは簡単だけれど、回復するのは時間がかかる」・・・と言われる所以です。

 一番気を付けなければならないパターンは、右下のグラフです。行き過ぎの状態が長く続くと、収容力の限界が下がり続けて、破局に至るのです。いろいろな種類の漁獲高のように資源の量が振動すると考えられているものでも、実は北海のタラのように、持続可能な限界値が以前よりもどんどん低くなって、行き過ぎから枯渇に至りそうな再生可能な資源は非常に多いのです。

 現在、世界では、地球規模の行き過ぎから破局に至る危険のあるもの(資源)で溢れています。漁業や農業などの食糧生産、野生動物、森林、工業の原料、汚染物質のシンク、そして経済、人口・・・。

 対策は、どれもみんな縮小する事以外にあるでしょうか?もう時間的、空間的余裕はほとんどないのです。

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Comments 8

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爽風上々

定常状態

おっしゃる通り、完全な定常状態などというものは現実にはあり得ず、なんでも必ず変動します。
食料生産も毎年同じだけ生産できれば良いのですが、天候の変動もあり不可能です。
そのために不作の年に備えて食料備蓄というものが必要になるのですが、それをどの程度行なう必要があるかは変動の大きさで左右されます。
不作の間食べつなげるほど備蓄するといってもそれが年間消費量の数倍になるといった事態もあり得ます。(火山大噴火の影響など)

それでも変動の幅が回復可能な範囲内であればあたかも三角関数の周期のように反復するカーブを描いて済みますが、そうだという保証はありません。

しかし現代文明の多くの要素はそのような楽園の永続性などは忘れ去りちょうど上向きの二次曲線のように無限に増大するかのように増え続け、そしていつかは(といっても近い将来)限界を迎えるのでしょう。

人類の歴史で「均衡」などというものがあったのかどうか。
おそらくホモサピエンスになって以降は無かったことかもしれません。
大型動物はあっという間に取り尽くし、食べ物が無くなればまた次の土地に移動し、そうして世界中に広がっていきました。
もう歴史の最初からそういう性質を発揮していたということでしょう。

2023/01/08 (Sun) 09:28

爽風上々

本記事の引用・紹介について

この記事の説明は非常に分かりやすく説得力が強いと感じましたので、勝手ながら私のブログで紹介させて頂くこととしました。
事後報告ではありますがご了承ください。
(明朝公開の予定)

2023/01/08 (Sun) 15:49
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 本記事の引用・紹介について

爽風上々さんのところのブログで紹介して頂くのは有難いことです。
わざわざ報告して頂き、感謝致します。
ただ、グラフが拙くて申し訳ございません。日本の人口の長期推移のグラフは小さ過ぎてもっと大きく、タラのグラフくらいにするべきでした。そして、成長の限界シリーズのグラフは、もっときれいに自分で描き直そうかとも思ったのですが、面倒なので止めました。悪しからず。

2023/01/08 (Sun) 20:31
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 定常状態

確かに完全な定常状態は現実的ではあり得ませんね。
近似的に「定常社会」とは、「変動が少なく、昨日と同じ今日、今日と同じ明日」という社会のことでしょうが、それにしても、定常社会への移行はかなり困難な事でしょう。仰るように、人類が定常な社会を築こうと思っても、自然が定常ではありませんし、人類が定常な社会を作り上げられるとも思えません。
仰るように人類の歴史において、「均衡」「定常状態」など無かったっでしょう。だから人類は「進化の短い歴史」になってしまう可能性が高いでしょう。特に「経済成長を宇宙に求める」などと言うのは危険です。環境負荷を増大させて、崩壊を早めるばかりでしょう。
あくせく働いて、経済を成長(・・と言う名の「膨張」)させてオーバーシュートして崩壊では、悲しすぎる・・・というか、お馬鹿すぎます。恐竜の方が何倍も何十倍も長い期間繁栄したことになってしまいます。

2023/01/09 (Mon) 00:22

guyver1092

実例に近いもの

 行き過ぎと振動に近い例として、中国の人口の歴史が当てはまると考えます。中国では振動の幅が300年ほど定期的に人口崩壊を起こし、その度に復活していました。復活できた原因は、農地が曲がりなりにも保全できたからです。

https://www.isc.meiji.ac.jp/~katotoru/jinkou996.html


 地域により農地が全できた理由が異なり「南中国では水田稲作、北中国では灌漑によらない小麦栽培を行うことで、なんとか数千年にわたって耕地の地味を保全してきた。」そうです。

 現代の地球文明は、右下でしょうね。理由は覚えている範囲で、北海の漁場は底引き網で破壊され、漁獲が激減したそうですし、我が国の沿岸漁業は磯焼けの拡大により、漁獲量が激減しています。その他世界規模で化学肥料の多用のにより、土地の保水力が減少し、農業に必要な水の量が増加しているそうです。これは、水資源の枯渇を招きます。どれもおっしゃる「収容力の減少」ですね。
 

2023/01/10 (Tue) 20:24
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 実例に近いもの

guyver1092さんから、他の記事にも最近、似たようなコメントを頂いた記憶ですが、
中国の人口の歴史が行き過ぎの振動の例とは非常に面白いですね。驚きです。

>「南中国では水田稲作、北中国では灌漑によらない小麦栽培を行うことで、なんとか数千年にわたって耕地の地味を保全してきた。」

これまた非常に興味深い内容です。水田稲作で水田が保全されるのは理解できるとしても、
>灌漑によらない小麦栽培
で耕地の地味を保全できた事が驚きです。どのような仕組みなのでしょう?

>現代の地球文明は、右下でしょうね。

そう言う事象で溢れているでしょうね。記事にも書きましたが、
色々な事象が、「収容力の減少」即ち「持続可能な限界の低下」によって、
バベルの塔が崩れ落ちるように凄まじい勢いで崩壊するのが恐ろしいですね。
もうバベルの塔を高く積み上げるのは止めて、「成長」と言う名の膨張から降りないと、本当に制御不能な減退、破局になるでしょう。

2023/01/11 (Wed) 19:23

guyver1092

灌漑によらない小麦栽培

 どこで読んだか覚えていない上に、今回探しても見つからなかったので、覚えている限りの記憶によりますが、中国の黄土は粒子が細かく保水力が高いので、灌漑の必要がなかったと書いてありました。これは、労働が用水路の補修等が必要なく、その当時の農村形態にも適合していたとのことです。結果として、灌漑による土地の塩化が無く、農地が保全できたということです。

2023/01/12 (Thu) 20:29
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 灌漑によらない小麦栽培

それだけの記憶が残っていれば大したものです。
そもそも、小麦は連作障害がでる作物というのが現在も定説なのに、数千年も小麦栽培が続いたことは驚きです。

>中国の黄土は粒子が細かく保水力が高いので、灌漑の必要がなかった

中国の黄土には、農業にとってこんな素晴らしい事があるのですね!吃驚です。

>労働が用水路の補修等が必要なく、その当時の農村形態にも適合していた

なるほど、中国の用水路は半端なく長いものもありますから、その労力が無ければかなり助かった事でしょう。

guyver1092 さんの上のコメントを読んで、「常識」はもっともっと疑ってかかるべきものである事が分かりました。有難う御座います。

2023/01/13 (Fri) 06:21
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
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