子どもたちに伝えたいー原発が許されない理由

本書は、2011年の原発震災の半年後に出版された本です。著者の小出裕章氏は、京都大学原子炉実験所(現在、京都大学複合原子力科学研究所)に勤務し、原子力利用の危険性について研究し続けて反原発を貫いてきた、通称「熊取六人衆」の一人です(「熊取」はこの研究所の所在する地名)。私は、原子力の研究者の中で、熊取六人衆だけは御用学者ではなく、最も信頼できる研究者であると考えています。他の原子力の研究者の多くは、多少とも御用学者的な側面があると考えられます。

「小学4年生(10歳)から読めます」と帯に記されている本書ですが、10年ほど前に発売されて、信頼できる熊取6人衆の一人、小出さんが著者ということで、反原発の団体の方から即購入した本です。1日で十分に読み切れる本ですが、内容的には小学生にはきついかと思われる部分もありました。それまでも原発の本はいくつも読んでいた私ですが、この本からも新たな知見もいくつも得られた記憶です。「反原発の入門書」としてだけではなく新たな知見も得られる、「数時間で読み切れて原発の数々の問題点が分かる本」としてもオススメします。
本書を読んで得られた新たな知見の中で最も記憶に残っていたのは、現在の原子力の燃料であるウランの埋蔵量は、エネルギーに換算して、石油の数分の一、石炭の数十分の一しかないと言う事です。
「化石燃料はやがて枯渇してしまうから、原子力は人類生存のために必要不可欠」と言う原発推進派の謳い文句とは裏腹に、原子力こそ、ほんの一時の打ち上げ花火のようなエネルギー源だったのです。そんなものの為に子々孫々末代に至るまで危険な放射能を産み出して、管理しなければなら無いのです。とんでもない代物です。
これに対し、「核分裂をしないウラン238を『もんじゅ』のような高速増殖炉でプルトニウムに変換すれば、60倍のエネルギーが得られるから、石油と同じくらいの量の資源になるだろう」と言うのが原子力推進派の言い分です。しかし高速増殖炉の建設は世界中で失敗し、ほとんどの国で手をひいています。

日本での「高速増殖炉実用化見通しの年度」は1967年には「1980年代前半」でした。長期見通しの改訂は5年ごとですが、改訂の度に実用化の見通し年度は10年先送りされ、その後、「1990年前後」から「2000年前後」、更に「2010年」にまで改訂されたのにも関わらず、実用化はできませんでした。
だからその後、実用化の目処を立てるのをやめて
「2030年度に技術開発の目処を立てたい」に書き換えられました。脱力的な見通しです。逆に言えば、今の所、技術開発の目処さえ立たないのです。
そして、2005年の長期計画では「2050年に、とにかく1基目の高速増殖炉を作りたい」に変わりました。今さら「作りたい」ってなんでしょうか?最初の見通しでは、遅くとも20世紀中には実用化されていたはずです。日本はこんな無駄なことに1兆円以上つぎ込んで、推進者の誰一人として責任をとっていないのです。
高速増殖炉は、核兵器の材料のプルトニウムを作れるから、その為に続けているという見方もあります。
日本の原子力研究のダメなところは、原子力研究の後進国であり、未だにアメリカやロシアに遅れをとっているのにも関わらず、「世界最先端の技術を持っていて、世界一安全な原発を作っている」と自負しプロパガンダしている点でしょう。・・・その結果、世界一過酷な原発事故を起こしてしまいました。
そして、他の国々では、打ち切った高速増殖炉計画をいまだに続けており、お金を湯水の如くつぎ込んでいるのです。
一刻も早く「高速増殖炉計画」から足を洗って、原発にも封印するべきでしょう。
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