地下資源を使うという事
地下資源の生産とは、元々そこに埋まっていた地下資源を掘り出して生成する事です。はじめから存在する資源を掘り出しているだけですから、『生産』とは言いますが、倉庫にしまって置いてあったものを出して来て使えるようにした・・・というイメージに近いでしょう。ただ倉庫から出すのとは違うのは、遥かに面倒な作業・・掘って製錬する・・と言う作業が必要であるという事です。そして、その作業は同時に大量の廃棄物を出します。
採掘作業で出る廃棄物は、鉱床を覆う表土、ミネラル含有率が少な過ぎて経済的な価値を持たない廃石、ミネラル分を抽出した後の尾鉱、ミネラル分を抽出した後の堆積浸出用の残滓・・採掘される鉱物の量より遥かに大量です。
そして、地下資源を掘る事による地表の損傷も環境破壊になります。
製錬という作業はコークスなどで鉄を還元しなければなりません。還元剤としてのコークスと加熱する為の石油資源などを消費しているわけです。・・・そして、その作業で出来て来る鉱物資源より遥かに多くの廃棄物が出ます。低エントロピーの資源であったコークスも石油も酸化して高エントロピーの廃棄物となる訳です。
水の汚染も深刻です。金属そのものや、精製用の化学物質、廃液、沈殿物などが川や地下水に流れ込んで大きな害になります。・・・鉛と亜鉛の鉱山から排出されたカドミウムに汚染された神通川の流域で起きたイタイイタイ病など、かつては公害問題として大きく取り上げられました。(・・今は二酸化炭素地球温暖化説の陰に隠れています。)
家電製品なり、自動車なり、それ自体が使えなくなって廃棄されるとき、随分な量の廃棄物が捨てられる・・・と危惧されます。しかし、家庭から出る地下資源由来の大量のゴミの一つ一つについて、その製品が作られるまでには、その何十、何百倍もの産業廃棄物が出てくるのです・・・ぞっとする現実です。もっと目を向けるべき問題でしょう。
地下資源を使って製品を作るという作業は、地球に蓄えられた貯蓄である地下資源を切り崩している事になるだけでなく、大きな環境破壊行為なのです。質の悪い事に、それら地下の物質の多くは、生態系の循環に回らない物質がほとんどです。逆にそれが生態系にばら撒かれるときには、生態系を破壊する毒として生態系を循環するのです。
工業的生産活動は、出来る製品の何倍もの(・・・ライフサイクルでトータルすれば何十倍、何百倍、何千倍もの・・)廃棄物を出す・・・という事を肝に銘じるべきでしょう。そして、それが地下資源である場合、殆どの廃棄物は自然の循環を回らずにただ廃棄物として長い間・・半永久的に・・どこか・・・山林であったり海であったり・・・に放置されるのです。一度っきりの使用で廃棄されている物も沢山あるでしょう。
20世紀になってからの大量に地下資源を使う産業構造は、百年レベルの打ち上げ花火のようなものです。持続する筈がありません。結局、地上に地下資源をばら撒いて、廃棄物だらけにして深刻な環境破壊をもたらし続けています。
これだけの環境の犠牲のもとに生産された大量の地下資源が、それだけの価値のある使われ方をしているでしょうか?
地下資源にはリサイクルすべき物質が沢山ありますが、その前に生産を控えるべきでしょう。・・缶詰めや缶ジュースなどは真っ先に廃止されるべきでしょう。
有限の地球で、再生不可能な地下資源を浪費する行為は愚行です。そんな現代社会は刹那的過ぎるというものです。地下資源の使用にはもっと遥かに慎重になるべきです。地下資源は、持続可能な社会への移行に際して封印していくべきパンドラの箱でしょう。
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