低炭素という低俗な戦略
「低炭素社会」と言う言葉を最初に聞いたときに違和感を覚えたのは私だけでは無いでしょう。
炭素は水素、酸素と共に、光合成など植物の同化作用によって、炭水化物を作る元素ですし、更に窒素原子も使ってアミノ酸からタンパク質を作る重要な元素です。生物界にとって大量に必要な元素です。生命活動の根本的な元素のひとつと言えましょう。炭素原子だけの循環を考えてもそれは即、生態系の循環に繋がります。エコロジー[ecology]とは元来「生態学」という意味ですから、生態系に必要な炭素の使用を減らすことを目標にした「低炭素 [low-carbon]」と言う言葉とエコロジー[ecology]と言う言葉は、近い意味どころか対立する言葉でしょう。
低炭素社会の意味についてネットで調べてみると、
炭素を減らすこと=二酸化炭素を減らすこと=温暖化防止
のように、三段論法などで述べられていたりします。非常に曖昧で様々に解釈出来る表現です。「地球温暖化防止の為に大気中の二酸化炭素を増やさない為に炭素を減らす。」というように、回りくどく聞こえます。何故直接、「低二酸化炭素」と言わないのでしょうか?「炭素の使用を減らす」ってどういう事かわかっているのでしょうか?
「炭素の酸化を減らす」と言うべきでしょう。もっと直接的に「石油など化石燃料の使用を減らそう」と言ったほうがわかりやすいでしょう。曖昧な表現を使うところが怪しいところです。
この、「低炭素 [low-carbon] 」と言う怪しい表現は、2006年にイギリス政府に作成を依頼された元世界銀行上級副総裁のスターンによって公表された「スターンレビュー」で、世界に伝播していきました。これは、二酸化炭素を新しい世界商品に仕立て上げる為の理論と見る事が出来ます。この文書は最初に挙げた「低炭素 [low-carbon] 」と言う形容詞のついた言葉で溢れています。これは環境対策に名を借りた、経済戦略の一環と言うべきでしょう。そして、その中で原子力も低炭素技術の一つとして明確に位置づけられています。
ここで、話を遡って、二酸化炭素温暖化脅威説がいつ頃から注目されたか見てみましょう。
大気中の二酸化炭素濃度の精密で長期的な観測を継続して、二酸化炭素濃度が長期的に増加していることを世界で最初に突き止めた人物はキーリングです。このキーリングの研究に、専門家以外で真っ先に着目したのは、当時アメリカ政府のエネルギー研究開発局[ERDA]傘下の研究所の所長であったワインバーグです。ERDAは、原子力を促進するアメリカ政府の組織です。ワインバーグはマンハッタン計画にも参加し、原子炉の開発を主導してきた人物です。ワインバーグがキーリングの研究成果であるCO2濃度上昇に着目したのは、多くの科学者が原発の安全性に疑問を抱き、原発批判の声をあげていた時期です。
「ワインバーグは、二酸化炭素の温室効果は、核エネルギーについて考えられる如何なる副次的効果よりも人類にとっては遥かに危険であって、今こそその危険性を探し出すべきである・・・と言う考えであった」とキーリングは自伝に書いています。温室効果の危険性をわざわざ「探し出す」と言っているのですから、作為的なものを感じずにはおれません。二酸化炭素の温室効果が核よりも危険という発想からして狂っていると言えましょう。今は世界の主流になっているその狂った発想は、ワインバーグから始まったと言えるかも知れません。
キーリングは自分の研究に着目してくれるのはありがたいとしても、それによって原発が推進される事に対しては非常に危惧していたのではないでしょうか。・・・科学者としての良心があるのなら、当然の事でしょう。
1979年にアメリカのスリーマイル島の原発で炉心溶融事故が起こると、その年に世界気象機構[WMO]と国連開発機構[UNEP]が気候と気候変動に関わる研究を開始します。
1986年にソ連のチェルノブイリの原発で核爆発事故が起こると、WMOとUNEPの総会で、「気候変動に関する政府間パネル」[IPCC]構想が提案され、翌年WMOとUNEPが協同でIPCCを設立しました。このIPCCの報告書は年を追う毎にCO2を主とする温室効果ガスが地球温暖化の主因という主張を強めてきました。そして、原子力発電もCO2削減技術の一つとして位置づけています。IPCCなど地球温暖化脅威論を発信する組織が原発を推進しているわけではないという方がいますが、IPCCははっきりと、二酸化炭素削減の技術の一つとして原子力発電を推奨しているのです。
以上のように、原発の危険性が憂慮され、脱原発の動きが盛んになった時期に、二酸化炭素温暖化説を強力に押しつける団体=IPCCが出来て、原発が息を吹き返したのです。つまり、二酸化炭素温暖化説は、原発推進派の切り札、起死回生の手段だったのです。世界中で原発が白紙撤回されたり、中止されたりして原発産業が斜陽になった20世紀末期に二酸化炭素温暖化脅威説を布教するIPCCが現れて、斜陽になった原発計画がまた浮上して現在に至ります。原子力推進派の大きな後押しがなければ、二酸化炭素温暖化説とその対策はここまで大げさにはなり得ませんでした。二酸化炭素温暖化対策には原発利権が絡んでいることは明らかです。以前【二酸化炭素温暖化説と原発推進の関係】にも書きました。
多くの国が 環境問題=二酸化炭素地球温暖化説 と言う単純矮小化した図式を作り上げて、ものが溢れて売れなくなったので、新たなビジネスとして「低炭素商品」を作って売りまくっているのです。言い換えれば「温暖化防止のための低炭素社会」と言う構想は、「低炭素 [low-carbon] 」と言う形容詞のついたビジネスを立ち上げて、新たな利権構造を作り上げているのです。そして、最悪の原発まで復活させて、確実に社会を放射能で汚染させているのです。
参考文献;エントロピー学会 基調演説 原稿
『低炭素社会という名の高ウラン社会を問う』 室田 武
2010年10月16日、17日 京都 同志社大学
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