国際競争力
IMD (International Institute for Management Development)のデータによりますと、バブルの頃は世界一だった日本の国際競争力は、バブル崩壊以降下降線をたどり、21世紀に入ってからは、20番台くらいを推移して、辛うじて30番台に落ち込まない状況です。(・・・IMDのデータがそれほど信頼できるとは思いません。順位も算出の仕方によって5番10番くらいは直ぐに変わるでしょう。・・・30番より下になったとしても騒ぐ必要もないと考えます。)
ここで国際競争力の再生を叫ぶ人達は、どんな方策を主張しているのかとネットで検索してみると、
ICT[Information and Communication Technology;情報通信技術]を十分に活用するとか、インフラ輸出を強化するとか、いかにも「切り札」のような表現で論じていますが、それって他の多くの国でも取り組んでいる事でしょう。現在、日本がその分野で他国に秀でているとは考えられません。限られた特殊技術以外では「日本の技術が世界一」と言う時代は終わりました。(・・高度経済成長時代からバブル時代までも、オリジナル技術でずば抜けて秀でていたわけではありません。・・・)バブル崩壊以降、国際競争力を取り戻すべく様々な提案がなされ、ことごとく失敗しています。(小さな成功例も沢山ありますが、国全体としては成功とは言えません。)
技術革新や新たな分野の開拓という、どこの国でも力を入れている方策以外で残る方策は、規制・制度改革という事になります。その内容も様々ですが、資本家、経営者達は、高コストでは国際競争に勝てないと主張して、法人税の引き下げを要求し、更に人件費の引き下げによって製造コストを引き下げようとしています。韓国や中国、インドなどのいわゆる新興国に、技術面でも追いつかれたり追い抜かれたりしている現在、資本家や経営者は抽象的な言葉でお茶を濁していますが、ストレートに言えば、コストカットしなければ国際競争力を取り戻せないと言いたいようです。その証拠に、企業の経営陣は、それらが達成されなければ、会社の拠点を海外に移すと言って脅しています。
コンピュータの導入などによって、商品の品質に差が出にくくなった現在、同じ品質の商品をどれだけ安く売るか・・・が競争のメインになっています。その場合、人件費の高い日本は大きく不利になっています。だから中国や東南アジアの新興国並みにまで賃金を下げる・・・というのが経営者達の言い分です。賃金カットは既にかなり以前より行われていて、ワーキング・プアなど深刻な問題が発生しています。
現在日本は、他国の低賃金の為に国際競争力が無くなったと騒いでいますが、日本自身が低賃金によって国際競争力を付けたと言う歴史があります。1950年代から1970年代にかけて日本が国際競争力を付けて経済大国にのし上がったのは、当時の日本が欧米諸国に比べてかなり低賃金で、勤勉に働く労働者が沢山いた事が大きな要因です。当時の日本製品の多くは欧米の製品よりも品質が良いわけではなく、安いから売れた・・という要素は大きかった筈です。当時の 「安い日本対高い欧米」 という構造が 現在は 「安いアジア諸国対高い日本」 と言う構造に変わった事は大多数の人が共通認識しているところです。
「国民が豊かになる為に国際競争力をつけなければならない」と主張している人々が、「国際競争力をつけるために賃金カットする」と主張するのは主客転倒でしょう。資本家達は、賃金カットによって国際競争力が付いたら、また賃金を上げる・・・と言っているようですが、賃金カットで国際競争力が付いたら、他の国もまた更に賃金カットに動き賃金カットのスパイラルが起こり、賃金のベースがどんどん下がって来ます。・・もう既に起こっています・・経済のグローバル化が進んだ現代社会は、世界中が賃金カットによって国際競争力をつけようというとんでもない動きになっています。
そして、経営陣の役員報酬もカットされる場合もありますが、日本をはじめ多くの国では役員報酬は増える傾向にあります。つまり、国際競争力の強化の本質は、労働報酬のカットであり、そのカットした分を国際競争力を付けるために使うという体のいい文句で、実際に一部は役員報酬に回しているのでしょう。つまり格差是正の体を装って、格差も助長しているのです。
グローバルに過酷な安売り競争をして、労働者の賃金を下げ、輸送に大量のエネルギーを使って環境破壊を促進する・・・国際競争力の強化の本質はこんなところだと考えます。これからの国家として大切な事は、国際競争力をつける事では無く、自給力をつける事です。
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