シュマイザー裁判
モンサント社は、シュマイザー氏に対して、モンサント社が特許を有するキャノーラ(西洋菜種)を違法に入手し、ライセンス無しで栽培したと特許侵害で告訴を仕掛けて来ました。育種家でもあるシュマイザー氏と彼の妻は、50年以上掛けて作った種がモンサント社のGMO [genetically modified Organism 遺伝子組み換え作物]で汚染されたので、逆にモンサント社が賠償すべきだとモンサント社に立ち向かう決意をします。
1996年、シュマイザー氏の地域で、三人の農民がモンサントの新しいGMOキャノーラを栽培することに同意しました。収穫時期の激しい嵐のおかげで、刈り取ったばかりのGMOキャノーラが、パーシー・シュマイザーの畑に入り込み、彼の農地はモンサントの種子で汚染されて、50年間にわたる彼の品種改良の努力が損なわれた・・・と言うのが真相と考えられています。シュマイザー氏は彼の畑に入れたくなかった種によって、自分が改良を重ねてきた種が駄目にされ、まるで時限爆弾が炸裂したようなショックでした。そのために50年も働いてきたものを失ってしまうということは、なんともうんざりで、受け入れがたいことでした。
当然、シュマイザー氏の主張に理があるでしょう。農家の不可抗力の花粉汚染ならば、農家に非がある筈もありませんし、GMで汚染されたのは農家のほうです。第一、遺伝子一つ細胞に組み込んだからと、その後の種から作られる作物全てが遺伝子を組み込んだ企業の物・・・と言う主張が通るなど、狂気の沙汰です。
ところが、農民は破算を恐れ、巨大企業モンサント社との裁判を避けて、示談金を払う場合が殆どだったそうです。モンサント社は、単に特許権を守ると言うより、損害賠償をビジネスとして展開しているのです。
モンサントは最初、1エーカーあたり何がしかの罰金を要求していましたが、他の訴訟も起こして結局100万ドルの損害賠償請求を起こしたとの事です。
2000年からはじまった審議では、モンサント社は、どのような経緯、交雑とか、風か、虫か、蜂か、農家のトラックやコンバインからこぼれ落ちたかは問題ではなく、その畑にモ社の特許遺伝子が入ったものがあったという事実は特許侵害にあたり、モ社に所有権が移転すると述べ、この主張を認める判決が出されます。シュマイザー氏は上告しますが、二審でも敗訴し、さらに最高裁に上告しますが、結果はモンサント社の特許を侵害したと言う敗訴の判決となりました。 カナダ最高裁には9人の判事がおり、今回は主席判事を含む5人が、シュマイザー氏が特許を侵害したという判決を出し、4人が、シュマイザー氏無罪の判決を出しました。まさに僅差の判決です。そして、この主席判事たちの判決も、シュマイザー氏の特許侵害を認めるものの、その特許種子の使用によって何ら利益を得ていないとの理由でモンサント社への支払いは不要、しかも下級裁判所で求められたモンサント社の裁判費用の立て替えも不要となりました。この事に対してシュマイザー氏は、判決は実際の勝利であると受け止めた発言をしています。
これで終わりと思っていたら、2年後の2005年にシュマイザー氏の畑の一つがまたもやモンサントのGMOキャノーラに汚染されました。これをモンサントに抜いて貰おうとしたところ、モンサントの連中は、権利放棄書にサインしなければGMOキャノーラの除去もしないし、モンサントの財産であるキャノーラを除去してはいけないと理不尽な事を言いだします。権利放棄書の内容は
「将来、われわれの土地を、あるいはこの農場を、彼らがどれほど汚染しようとも妻、私自身、あるいは我が一家の誰も、モンサントに対して裁判を、一生、決してしない」
そして「その和解の条件、示談書の内容をいかなる第三者にも知らせないこと」
でした。当然シュマイザー氏はサインを拒否します。
シュマイザー氏は、モンサントの脅しに負けずに隣人達に640カナダドルを支払って自分の農地のGMOを除去し、その請求書をモンサントに送りました。モンサントは当然のことながら支払いを拒否し1年間の手紙のやり取りの後、裁判に持ち込んで、モンサントが支払いを認めました。これによってモンサントは、GMOの汚染損害を賠償すると言う「至極当然」の義務が課せられたのです。
シュマイザー氏とモンサントの戦いはこれで終わって欲しいものですが、モラルなきモンサントはこれからも何をしでかすかわかりません。
モンサントは自らのHPで、「パーシー・シュマイザー氏は、ヒーローではありません。話が上手な特許侵害者です。彼の隣人たち、そして大多数の農業生産者が、特許で保護された種子を、ライセンス契約下で播種しているにも関わらず、シュマイザー氏は、モンサント・カンパニーの特許技術が含まれる種子を、ライセンスを受けずに自家採種したのです。」等と言って、ライセンス契約した農家も仲間に引き込んでシュマイザー氏を悪人に仕立てあげようとしています。本当にとんでもない企業です。Biopiracy[生物的海賊行為]企業と言えましょう。
個人でここまで戦ったシュマイザー氏の勇気と正義に拍手を送ります。
参考文献;
The Monsanto Files The Ecologist 編集部 緑風出版
自殺する種 安田節子著 平凡社
参考HP
安田節子 のGMOコラム
パーシー・シュマイザーさん講演要旨
脅しの手紙
マスコミに載らない海外記事
パーシー・シュマイザー対モンサント: 農民の権利と種子の未来を守るカナダ農民の戦いの物語
パーシー・シュマイザーモンサントと闘う
Organic Life Circle
生命体に特許は及ぶのか シュマイザー裁判に敗訴判決
日本有機農法研究会
シュマイザー裁判ついに最高裁判決 「特許侵害」を僅差で認める
MONSANTO Japan HP モンサント・カンパニーの見解 この最後のHPはモンサントが如何に卑劣な企業であるかが窺い知れるサイトです。