雑草の言葉

シュマイザー裁判

2013/06/23
農業 6
1998年、カナダの農民パーシー・シュマイザー[Percy Schmeiser]氏のもとへ、モンサント社から突然一通の手紙が送られて来ました。(農民が『恐喝状』と呼んでいる手紙です。・・・これは、シュマイザー氏への脅しの手紙ではありませんが、同じ年に別の農民に送り付けられたもので、シュマイザー氏へ手紙と内容は似たようなものでしょう。)
モンサント社は、シュマイザー氏に対して、モンサント社が特許を有するキャノーラ(西洋菜種)を違法に入手し、ライセンス無しで栽培したと特許侵害で告訴を仕掛けて来ました。育種家でもあるシュマイザー氏と彼の妻は、50年以上掛けて作った種がモンサント社のGMO [genetically modified Organism 遺伝子組み換え作物]で汚染されたので、逆にモンサント社が賠償すべきだとモンサント社に立ち向かう決意をします。
1996年、シュマイザー氏の地域で、三人の農民がモンサントの新しいGMOキャノーラを栽培することに同意しました。収穫時期の激しい嵐のおかげで、刈り取ったばかりのGMOキャノーラが、パーシー・シュマイザーの畑に入り込み、彼の農地はモンサントの種子で汚染されて、50年間にわたる彼の品種改良の努力が損なわれた・・・と言うのが真相と考えられています。シュマイザー氏は彼の畑に入れたくなかった種によって、自分が改良を重ねてきた種が駄目にされ、まるで時限爆弾が炸裂したようなショックでした。そのために50年も働いてきたものを失ってしまうということは、なんともうんざりで、受け入れがたいことでした。


 当然、シュマイザー氏の主張に理があるでしょう。農家の不可抗力の花粉汚染ならば、農家に非がある筈もありませんし、GMで汚染されたのは農家のほうです。第一、遺伝子一つ細胞に組み込んだからと、その後の種から作られる作物全てが遺伝子を組み込んだ企業の物・・・と言う主張が通るなど、狂気の沙汰です。
ところが、農民は破算を恐れ、巨大企業モンサント社との裁判を避けて、示談金を払う場合が殆どだったそうです。モンサント社は、単に特許権を守ると言うより、損害賠償をビジネスとして展開しているのです。
モンサントは最初、1エーカーあたり何がしかの罰金を要求していましたが、他の訴訟も起こして結局100万ドルの損害賠償請求を起こしたとの事です。
2000年からはじまった審議では、モンサント社は、どのような経緯、交雑とか、風か、虫か、蜂か、農家のトラックやコンバインからこぼれ落ちたかは問題ではなく、その畑にモ社の特許遺伝子が入ったものがあったという事実は特許侵害にあたり、モ社に所有権が移転すると述べ、この主張を認める判決が出されます。シュマイザー氏は上告しますが、二審でも敗訴し、さらに最高裁に上告しますが、結果はモンサント社の特許を侵害したと言う敗訴の判決となりました。 カナダ最高裁には9人の判事がおり、今回は主席判事を含む5人が、シュマイザー氏が特許を侵害したという判決を出し、4人が、シュマイザー氏無罪の判決を出しました。まさに僅差の判決です。そして、この主席判事たちの判決も、シュマイザー氏の特許侵害を認めるものの、その特許種子の使用によって何ら利益を得ていないとの理由でモンサント社への支払いは不要、しかも下級裁判所で求められたモンサント社の裁判費用の立て替えも不要となりました。この事に対してシュマイザー氏は、判決は実際の勝利であると受け止めた発言をしています。


これで終わりと思っていたら、2年後の2005年にシュマイザー氏の畑の一つがまたもやモンサントのGMOキャノーラに汚染されました。これをモンサントに抜いて貰おうとしたところ、モンサントの連中は、権利放棄書にサインしなければGMOキャノーラの除去もしないし、モンサントの財産であるキャノーラを除去してはいけないと理不尽な事を言いだします。権利放棄書の内容は
「将来、われわれの土地を、あるいはこの農場を、彼らがどれほど汚染しようとも妻、私自身、あるいは我が一家の誰も、モンサントに対して裁判を、一生、決してしない」
そして「その和解の条件、示談書の内容をいかなる第三者にも知らせないこと」
でした。当然シュマイザー氏はサインを拒否します。
 シュマイザー氏は、モンサントの脅しに負けずに隣人達に640カナダドルを支払って自分の農地のGMOを除去し、その請求書をモンサントに送りました。モンサントは当然のことながら支払いを拒否し1年間の手紙のやり取りの後、裁判に持ち込んで、モンサントが支払いを認めました。これによってモンサントは、GMOの汚染損害を賠償すると言う「至極当然」の義務が課せられたのです。
シュマイザー氏とモンサントの戦いはこれで終わって欲しいものですが、モラルなきモンサントはこれからも何をしでかすかわかりません。

モンサントは自らのHPで、「パーシー・シュマイザー氏は、ヒーローではありません。話が上手な特許侵害者です。彼の隣人たち、そして大多数の農業生産者が、特許で保護された種子を、ライセンス契約下で播種しているにも関わらず、シュマイザー氏は、モンサント・カンパニーの特許技術が含まれる種子を、ライセンスを受けずに自家採種したのです。」等と言って、ライセンス契約した農家も仲間に引き込んでシュマイザー氏を悪人に仕立てあげようとしています。本当にとんでもない企業です。Biopiracy[生物的海賊行為]企業と言えましょう。


 個人でここまで戦ったシュマイザー氏の勇気と正義に拍手を送ります。

参考文献;
   The Monsanto Files The Ecologist 編集部      緑風出版

自殺する種  安田節子著             平凡社
 

参考HP    
安田節子 のGMOコラム
          パーシー・シュマイザーさん講演要旨

          脅しの手紙


マスコミに載らない海外記事
          パーシー・シュマイザー対モンサント: 農民の権利と種子の未来を守るカナダ農民の戦いの物語

          パーシー・シュマイザーモンサントと闘う


  Organic Life Circle  
      生命体に特許は及ぶのか シュマイザー裁判に敗訴判決
 

  日本有機農法研究会
      シュマイザー裁判ついに最高裁判決 「特許侵害」を僅差で認める

  MONSANTO Japan HP モンサント・カンパニーの見解 この最後のHPはモンサントが如何に卑劣な企業であるかが窺い知れるサイトです。 
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Comments 6

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でなしNo.146

悪徳商法ですね。

そんなひどい話があるのか?と思ってググッてみたところ、Percy SchmeiserさんとMonsanto社の争いが取り上げられたページがたくさん出てきました。

アメリカの農業界では結構有名な話のようですが、あまりにもひどいですね。

モンサント社などは種苗を管理する会社を隠れ蓑にした損害賠償ビジネスでお金を得ている歪んだ実態が見えました。

パーシーさんが育種をやっておらず農業に情熱がなかった人ならば、多くの人と同じように言い値の示談金を支払っていたのでしょう。

日本にも、こういう種苗特許侵害の裁判のお話が近い将来来るんでしょうね。

日本の農家の方も情報と知識などでしっかり防衛してほしいものです。

2013/06/23 (Sun) 00:46

雑草Z

Re:悪徳商法ですね。

>そんなひどい話があるのか?

そうなんですよ。こんな酷い話が実際にあるのですよ。こんな悪徳企業をのさばらしているアメリカが理想の国の筈がありません。アメリカの真似をするのは止めるべきです。

>アメリカの農業界では結構有名な話のようですが、

アメリカの農業界なら知ってる人も少なからずいるでしょうが、マスコミも大きく取り上げないし、モンサントの悪行は、恐喝状(示談書)に書いてある
>「その和解の条件、示談書の内容をいかなる第三者にも知らせないこと」

によって、なかなか広まらないようです。日本でも知っている人は極端に少ないでしょうね。こんな悪徳業者が、世界の多国籍アグリバイオ企業のトップですから、世も末です。

>日本の農家の方も情報と知識などでしっかり防衛してほしいものです。

経団連の会長の会社はモンサントと協定を結んでいます。最低ですね。
この事だけでもTPPは絶対に参加すべきではないのです。

2013/06/23 (Sun) 09:44

guyver1092

反撃できる方法となるか

 下から二つ目のリンクの

>今回の判決でモンサント社は、勝手に拡散して他人の農場を汚染してしまった遺伝子組み換え種子にも、その特許の有効性を認められました。これは逆にいうと、モンサント社は拡散してしまった種子についても責任が求められることになります。

http://www.joaa.net/gmo/gmo-0408-02.html


>今年5月21日にカナダ最高裁は、遺伝子組換え(GM)特許権侵害裁判でGM汚染を受けたシュマイザーさんの有罪を確定したが、6月29日には鹿島港周辺の道路脇にGMナタネが自生していることを農水省が発表し、今後、日本でも同じ汚染被害が起こることが必至と考えられる。この判決について、農家が汚染をどう法的に考えたらよいか、参考のために検討したい。

の二つを合わせて考えてみます。
 GMナタネの自制しているものにつき、モンサントに撤去をせよと訴えます 。訴えが認められれば、遺伝子汚染は防げ、日本の種は守られます。
 もしモンサントの主張により撤去しないことが認められれば、自生を放置して遺伝子の拡散をモンサントの意思により行っているのであるということになります。このような場合、モンサントがこの自生した菜種からの遺伝子汚染を特許侵害と訴えても、自生を放置したのはモンサントであるのでモンサントは自分の特許を守る気が無いので訴る権利がないと言えるのではないでしょうか。

2013/06/24 (Mon) 22:49

雑草Z

Re:反撃できる方法となるか

    guyver1092さん、流石です。
モンサントの主張の矛盾を突いてますね!!
御指摘の点、御もっともだと思います。

 モンサントの主張は、理不尽な事ばかりで、はじめから「言いがかり」レベルですから、モンサントの主張が通ること自体が異常ですね。これは、モンサントの、政治家達に対する「ロビー活動」と、いわゆる『回転ドア』で、モンサントの役員がアメリカ国家のGMOなどの規制庁の長官として入り込み、理不尽な法律を作っている事などが原因でしょう。
このような詐欺レベルの事をやる企業が、世界最大のアグリバイオ企業ですからどうしようもありません・・・と言うよりも、詐欺レベルの行為を繰り返して、巨大になったと言うべきでしょう。このような事を政府が許していればモラルハザードに陥り、国家が存続できなくなるでしょう。

2013/06/25 (Tue) 05:52

不屈の足袋

事態は複雑です。

久しぶりにお邪魔します。
偶然ですが先週の日曜日、安田美絵さんという方の講演を聴く機会があり、今回のカナダの農民とモンサント社の争いのことも述べられていました。全くとんでもない企業ですが、情けないことにこの会社の除草剤「ラウンドアップ」をJA(農協)が売っているという事実です。それも販売所に山積みにし、イチオシで販売に力を入れています。TPPに反対している組織が、推進派の本山経団連会長米倉氏の会社、住友化学が提携している企業の製品ですよ!!。分ってやっているのか、理解に苦しみます。

安田美絵さんに関しては以下参照
http://luna-organic.org/tpp/tpp.html

2013/06/25 (Tue) 21:16

雑草Z

Re:事態は複雑です。

    不屈の足袋さん、お久し振りのコメント、有難う御座います。情報有難う御座います。

>情けないことにこの会社の除草剤「ラウンドアップ」をJA(農協)が売っているという事実です。それも販売所に山積みにし、イチオシで販売に力を入れています。

JA(農協)がラウンドアップ一押しですか・・・・確かにTPPに反対している団体とは思えませんね。これからでもラウンドアップ排除にでも動けば見直せますが・・。

件の本;安田節子著、自殺する種・・にも、JA(農協)の防除暦などが日本を世界一農薬を使う国にした原因であるなどと書かれていました。JA(農協)は、日本に化学農業を根付かせた張本人ですね。JA(農協)は日本にとって不必要なのか、少しは役に立っているのか?・・・・私の評価は数年前から揺れてますが、 不屈の足袋さんの評価は如何でしょうか?
安田節子さんの書かれた『自殺する種』は期待以上にいい内容で沢山の知識を得ました。安田美絵さんもなかなかのようですね。親戚でしょうか?

2013/06/26 (Wed) 06:43
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
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