農業の近代化
例えば、耕地面積1ha当たりの米の収穫量は、伝統的稲作の1トンに対して近代的稲作では4トン(以上)に増加したので、土地生産性は、4倍(以上)に増加しました。また、耕作の機械化によって、単位収量あたりの投入労働量も5分の1(以下)に減少したので、労働生産性は5倍(以上)になったと言えます。
だからこの「農業の近代化」を高く評価する人は多く、現在も政治家の多くはこの「農業の近代化」に拘っています。そして、いまだに緑の革命が成功したと思っているような連中は、「農業の近代化は、地球上から飢餓をなくすために不可欠である。」と言います。
しかしこれはかなり近視眼的な物の見方です。
例えば、土地と労働力を除いた資材で考えると、農業の近代化は、生産性を酷く低下させたことになります。一定の収穫を得るために投入される資材(種子、農具、肥料など)は桁違いに多くなっているのです。農業機械、農薬、化学肥料、温室資材などの外部資材の購入代金で出費が増えたため、収入が増えても、実収入が増えたとは、言い切れません。日本で言えば、資材購入の為に出稼ぎや兼業をせざるを得ない農家が増えました。「農業の近代化」によって発展したのは、農業では無く、農業に資材を供給したり、農業から原料を受け取り加工する、工業や農業であった・・・と言うシビアな笑えない事実があります。
エネルギー生産性で考えても近代化農業は桁違いに生産性が落ちているばかりか、太陽のエネルギーを食物中に取り入れると言う重要な役割から考えても、話にならない結果をもたらしています。
例えば、アメリカにおけるトウモロコシの収穫に関しては、昔ながらの伝統的農法では、投入エネルギーの10倍ほど(以上)のエネルギーを生産(=太陽エネルギーを固定)しますが、近代的農法ではそれが4倍程度です。(計算法によってはもっと下がるようです。)更にトウモロコシを缶詰にするところまで考えると、缶詰の中のトウモロコシの持っているエネルギーは投入エネルギーの0.1倍ほどになってしまいます。(ジェレミー・リフキン)つまり、トウモロコシの缶詰の生産では、投入したエネルギーの十分の一のエネルギーしか得られない(=太陽エネルギーを固定できない)わけです。これでは石油など「地球のエネルギーの貯蓄」を切り崩している事になります。持続可能な筈がありません。
先に伝統的農法に比べて、近代化農業は、土地生産性で4倍(以上)、労働生産性で5倍(以上)と書きましたが、それは近代化農業導入当初の話です。収量逓減の法則(化学肥料や農薬の使用を始めた当初は、収量は急激に上昇するが、次第に、収量の伸びは頭打ちになり、生産性のわずかな増加のために膨大な肥料や農薬を投入せざるを得なくなる現象。)だけではなく、単作や土壌の化学物質漬けにより、農地が疲弊し、化学肥料を使わなければ作物が育たない荒れ地になってしまうのです。単作による土地の疲弊、 農薬、化学肥料の集中的使用による化学汚染は世界中でかなり深刻な状況になっています。そのためにアメリカ等では土壌の流出が続いています。さらに、欧米型の近代的単作農業は、生物の多様性も喪失させています。農耕地の環境破壊は、非常に深刻な状況です。
最近、農業の近代化に対する批判と懸念が高まっています。近代化農業は環境を破壊するし、持続可能でもありません。「失敗」と評価する人も増えています。安田節子氏は「農業の近代化は、発展ではなく衰退」と述べていますが、全くその通りだと思います。昔からの伝統的農法・・・人力(や畜力)中心の、有機無農薬農業が見直される時期に来ているのです。
農業に限らず、『近代化』と言う言葉は、現代社会では歓迎されるムードがありますが、その『近代化』によってしばしば色々な問題・・・特に深刻な環境問題が引き起こされて来ました。『近代化』と言う言葉には踊らされないようにしなければなりません。特に『農業の近代化』は、これまでに世界に取り返しのつかないような大きな環境問題を引き起こしました。そしてこれから更に深刻な環境破壊、食糧危機を引き起こすであろうと考えています。
参考文献;自殺する種 安田節子著 平凡社
参考HP;科学と技術の諸相 豊かな農業とは
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