雑草の言葉

農業の近代化

2013/07/05
農業 8
現代資本主義社会で考えられている農業の近代化の目標は、土地、及び労働力あたりの生産性を増大させることでした。そのために、農薬、化学肥料、(大型)農業機械が導入され、品種改良、水利システム開発(大量の水の使用)、単作化が進められて来ました。そして、その結果確かに、(一時的には)土地の生産性も、労働力あたりの生産性も飛躍的に伸びました。
例えば、耕地面積1ha当たりの米の収穫量は、伝統的稲作の1トンに対して近代的稲作では4トン(以上)に増加したので、土地生産性は、4倍(以上)に増加しました。また、耕作の機械化によって、単位収量あたりの投入労働量も5分の1(以下)に減少したので、労働生産性は5倍(以上)になったと言えます。
だからこの「農業の近代化」を高く評価する人は多く、現在も政治家の多くはこの「農業の近代化」に拘っています。そして、いまだに緑の革命が成功したと思っているような連中は、「農業の近代化は、地球上から飢餓をなくすために不可欠である。」と言います。
しかしこれはかなり近視眼的な物の見方です。
例えば、土地と労働力を除いた資材で考えると、農業の近代化は、生産性を酷く低下させたことになります。一定の収穫を得るために投入される資材(種子、農具、肥料など)は桁違いに多くなっているのです。農業機械、農薬、化学肥料、温室資材などの外部資材の購入代金で出費が増えたため、収入が増えても、実収入が増えたとは、言い切れません。日本で言えば、資材購入の為に出稼ぎや兼業をせざるを得ない農家が増えました。「農業の近代化」によって発展したのは、農業では無く、農業に資材を供給したり、農業から原料を受け取り加工する、工業や農業であった・・・と言うシビアな笑えない事実があります。
エネルギー生産性で考えても近代化農業は桁違いに生産性が落ちているばかりか、太陽のエネルギーを食物中に取り入れると言う重要な役割から考えても、話にならない結果をもたらしています。
例えば、アメリカにおけるトウモロコシの収穫に関しては、昔ながらの伝統的農法では、投入エネルギーの10倍ほど(以上)のエネルギーを生産(=太陽エネルギーを固定)しますが、近代的農法ではそれが4倍程度です。(計算法によってはもっと下がるようです。)更にトウモロコシを缶詰にするところまで考えると、缶詰の中のトウモロコシの持っているエネルギーは投入エネルギーの0.1倍ほどになってしまいます。(ジェレミー・リフキン)つまり、トウモロコシの缶詰の生産では、投入したエネルギーの十分の一のエネルギーしか得られない(=太陽エネルギーを固定できない)わけです。これでは石油など「地球のエネルギーの貯蓄」を切り崩している事になります。持続可能な筈がありません。

先に伝統的農法に比べて、近代化農業は、土地生産性で4倍(以上)、労働生産性で5倍(以上)と書きましたが、それは近代化農業導入当初の話です。収量逓減の法則(化学肥料や農薬の使用を始めた当初は、収量は急激に上昇するが、次第に、収量の伸びは頭打ちになり、生産性のわずかな増加のために膨大な肥料や農薬を投入せざるを得なくなる現象。)だけではなく、単作や土壌の化学物質漬けにより、農地が疲弊し、化学肥料を使わなければ作物が育たない荒れ地になってしまうのです。単作による土地の疲弊、 農薬、化学肥料の集中的使用による化学汚染は世界中でかなり深刻な状況になっています。そのためにアメリカ等では土壌の流出が続いています。さらに、欧米型の近代的単作農業は、生物の多様性も喪失させています。農耕地の環境破壊は、非常に深刻な状況です。 

最近、農業の近代化に対する批判と懸念が高まっています。近代化農業は環境を破壊するし、持続可能でもありません。「失敗」と評価する人も増えています。安田節子氏は「農業の近代化は、発展ではなく衰退」と述べていますが、全くその通りだと思います。昔からの伝統的農法・・・人力(や畜力)中心の、有機無農薬農業が見直される時期に来ているのです。

 農業に限らず、『近代化』と言う言葉は、現代社会では歓迎されるムードがありますが、その『近代化』によってしばしば色々な問題・・・特に深刻な環境問題が引き起こされて来ました。『近代化』と言う言葉には踊らされないようにしなければなりません。特に『農業の近代化』は、これまでに世界に取り返しのつかないような大きな環境問題を引き起こしました。そしてこれから更に深刻な環境破壊、食糧危機を引き起こすであろうと考えています。

参考文献;自殺する種  安田節子著             平凡社
参考HP;科学と技術の諸相    豊かな農業とは
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Comments 8

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団塊親爺の遺言

食べ物は無農薬

いつも具体的に指摘し判り易い解説でありがとう

私も時々、農家へ直接行き話を聞いています
事態は本当に深刻なものです 果樹農家は
利益が出ず跡取りも継がないのです・・
高齢化した農家は廃業するものが増えて耕作放棄地へ
余りにも病害虫が増え先行きに希望が無い・・

今の農業指導者は何処に居るのでしようね ?

利益のみの追及の農家を束ねる組織は薬剤メーカーと
結託し化学薬剤で生産されたものが私たちの食べ物
当然、私たちに抵抗性や免疫が無くなり様々な病気が
蔓延します いつの間にかひ弱な社会に・・
薬剤メーカーは大儲けです 最後はウィルスの所為に
してお終いの社会 こんな世界に成ってしまいました

無農薬の食べ物は無いに等しく食糧は大企業に支配された
無農薬10年目の私に無農薬栽培農家より協力要請が
来ています 象に立ち向かう蟻一匹ですが人生にこれを
残せた事で忙しくなりそうです

2013/07/06 (Sat) 09:46

雑草Z

Re:食べ物は無農薬

    団塊親爺の遺言さん

 歴史的な経緯などを知ると、農薬は、必要に迫られて開発したと言うよりも、化学薬品会社が、需要を作り出す為に作ったと思われます。その為に生態系など、地球環境に甚大な悪影響を及ぼしています。無い方が遥かにいいですね。


>果樹農家は利益が出ず跡取りも継がないのです・・

これが農業の近代化の行く末の姿だったようですね。

>薬剤メーカーは大儲けです 最後はウィルスの所為にしてお終いの社会 こんな世界に成ってしまいました

本当にとんでもない事です。薬品会社のマッチポンプもいいところですね。

>象に立ち向かう蟻一匹ですが人生にこれを残せた事で忙しくなりそうです

是非頑張って下さい。相手は巨大のようですが、組織に縛られた利権目当ての烏合の集だと思います。まともな人もいるだろうし、悪の権化のような巨人では無いかも知れませんね。


2013/07/06 (Sat) 14:56

guyver1092

正解はどこにある

 現代農法が間違っているのは、本文の通りですね。それではどこに正解があるのでしょうか?
 正しい物差しを使って測れば正解は出るはずですね。やはり本文にあるように、エネルギー産出比を持ってくるべきでしょうね。環境負荷も物差しとして必要でしょう。負荷が環境を破壊しては永続性の点で問題がありますね。
 石油等、地下資源が安く手に入ったのが過ちの元と考えます。投入エネルギーと産出エネルギーの価格と言う点で、重大な誤認をさせました。
 これからは安い石油時代が終わるのが真実なら、正しい農業をせざるをえなくなるでしょうね。失敗すれば文明崩壊でしょうが。

2013/07/06 (Sat) 22:05

雑草Z

Re:正解はどこにある

    guyver1092さん

 農業の近代化は、国が率先して行って来ましたが農薬会社や農機具会社、土建業者の利権が目的だったのやもしれません。・・・結果的にはそうだったと言えそうです。

>正しい物差しを使って測れば正解は出るはずですね。やはり本文にあるように、エネルギー産出比を持ってくるべきでしょうね。環境負荷も物差しとして必要でしょう。
おっしゃるようにこのあたりの事をしっかり評価しなければ、文明崩壊でしょうね。それなのに世界の農業は多国籍企業の刹那的な利益の為に持続不可能な農業を強いられようとしていますね。

>石油等、地下資源が安く手に入ったのが過ちの元

そうですね。環境破壊税を払わずに、石油を湯水のように使ったのが今日の失敗の原因ですね。石油はパンドラの箱でしたね。

 有機無農薬農業に戻らなければ文明崩壊でしょうね。

2013/07/07 (Sun) 15:45

地下水

To ☘雑草Z☘さんへ 正解

 農薬化学肥料機械耕作農業は、土壌を破壊する事が明白となりました。そして不耕起雑草農法が土壌を破壊しない持続可能な方法である事が証明されました。

 クワではなくて、昔から言う三日月ですね。半円形の、表土の雑草をスライスして切り取るやつです。これで表土をさらって、切った雑草を、ワラのマルチングで苗を育てる様に、表土に残して枯葉にします。そのタイミングで種や苗を植え付けて、雑草に負けない様に育てます。この三日月をトラクターの代わりに付けたので表土を高速に整形して行けばいいのです。表土から30センチくらいの所のミミズや土の中の生き物を殺さないで、土の湿気も保って、その土の構造を温存すれば持続可能になる事が判明したのです。種や苗は雑草に負けますから、表土はさらって雑草を枯らしておきます。そしてその枯葉でマルチングして、湿度と肥料をかねます。

 なんだ昔からしていた方法やん。そうなのです。

2021/06/05 (Sat) 21:34
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 正解

地下水さん

農業にお詳しいですね。稲作をされた事があるのでしょうか?

> そして不耕起雑草農法が土壌を破壊しない持続可能な方法である事が証明されました。

不耕起雑草農法は土壌を破壊しない事は明らかですが、耕した有機無農薬農業は駄目でしょうかね?
逆に不耕起雑草農法でも農薬と化学肥料を使っては持続可能ではないでしょうね。

>  昔から言う三日月ですね。半円形の、表土の雑草をスライスして切り取るやつです。これで表土をさらって、切った雑草を、ワラのマルチングで苗を育てる様に、表土に残して枯葉にします。

なるほど、三日月鎌って言うんですね?初めて知りました。早速買って家庭菜園で試してみます。

>  なんだ昔からしていた方法やん。そうなのです。

私は知りませんでしたので、やってみます。私の家庭菜園は雑草は豊富ですので(笑)

2021/06/05 (Sat) 23:16

地下水

To ☘雑草Z☘さん Re:Re: 正解

 ああ、三日月じゃないです。半月です。半月クワです。カマじゃないです。さらいこです。

2021/06/06 (Sun) 06:29
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: To ☘雑草Z☘さん Re:Re: 正解

地下水 さん

半月クワ、さらいこ、三日月鎌 検討して、有効と思えるものが有れば使ってみます。


2021/06/06 (Sun) 17:54
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
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