雑草の言葉

自殺する種[書評]

2013/07/11
書評 2
この春、種やバイオ産業に関する本を3冊読みました。
 まだ肌寒い初春、最初に、『遺伝子組み換え企業の脅威[モンサント・ファイル日本語版]』を読んで、多くの知識を得、モンサントの悪行が想像以上に酷く、モラルハザードの域である事が分かりました。本書は告発本としても非常に名著だと思います。続いて、4月末からの連休に野口勲氏の『タネが危ない』を読みました。日本でただ一店、いまだに固定種を中心に扱っている種屋さんの書いた本です。[モンサント・ファイル日本語版]と重複する分も含め、雄性不稔等を利用したF1品種の作り方など、種に関するまた違った様々な知識を得ました。これまた名著でした。
 初夏になる頃、最後に読んだ『自殺する種』は、この3冊の中では比較的期待していなかった1冊でした。先の2冊とは少し違った先入観がありました。それは・・著者が、日本消費者連盟勤務だった事で、あんまり専門知識のない方の著書か・・?と思った事と、ネットの書評に、「内容が間違いだらけ」とあったからです。一方このネットの書評は逆に本当かどうか確かめる興味も湧きました。何故なら、他の人のレビューは概ね高評価であったにも拘らず、この書評だけ極端に低評価であり、同時に、緑の革命を批判した本書の内容を酷評し、逆に緑の革命をかなり高評価しているので、このレビュアーは、理性の無い人物か、アグリバイオ会社のまわし者かも知れないとも思ったからです。この時点で、このレビューアーは信用ならないとも思いました。この、酷評が、逆に読むモチベーションを高めたとも言えましょう。モンサント批判には、必ずと言っていいほどこの手の輩が湧いて出るようです。実際読んでみて、私の評価も他の多くの高評価と同じように非常に素晴らしい本だと結論します。内容のちょっとした間違いなどは気にならない名著です。

最初の2冊も素晴らしい内容で、購入してまで読む価値が十分にあると思いますが、お薦めを1つだけに絞れと言われれば、躊躇なく、「自殺する種」と答えます。近代化農業の問題点をしっかりと暴き、巨大アグリバイオ企業を告発する著者の勇気と正義感には、信頼が置けると感じました。
確かに、『自殺する種』と言うタイトルなのに、ターミネーター・テクノロジーに関しては、わずかしか書かれていません。このタイトルは、インパクトを強くする為に付けたタイトルかも知れません。しかし、「タイトルに偽りあり」とは思いません。逆にタイトルで損さえしているのではないかと思うほど充実した内容でした。サブタイトルの「アグロバイオ企業が食を支配する」のほうが内容的には合っているでしょうが、それでもまだまだ本書の全容は示せていません。何故なら、内容はターミネーター・テクノロジーを象徴とする、遺伝子組み換え企業の数々の悪行を暴露するばかりに留まらず、種による食の支配戦略、工業的近代化畜産(クローン技術も含む)の大きな危険性、工業的農業の破綻、日本農業の欠点や食の未来の展望(・・近代化農法は破綻し、有機に戻らなければならない・・)にまで及び、環境を考慮した広く高い見地から述べているからです。(現在の世界の指導者に足りない部分です。)この小さな文庫本サイズに、遺伝子組み換え企業の悪行や食の支配、それに対抗する手段としての有機農法などについて有意義な内容が盛り沢山で、それでいて内容的には拡散している感じは受けず、一つの筋があって、引き込まれるように読めました。

先ず最初のほうに、途上国が何故飢えるかの理由を、
「世界銀行が指南して来た開発モデルに従い、IMFの『助言』に従って自給自足農業を犠牲にしていったから・・」と、世界銀行やIMF、WTOを先進国(特に米国)の「回し者」と切り捨てているところから気に入りました。まさにその通りだからです。内容は更に遺伝子の特許化とシュマイザー裁判、破綻に直面する農業の近代化の虚構などへと次々に踏み込んでいき、読み応えがある内容が満載でした。
日本消費者連盟と言う組織も骨がある組織だと感じました。大企業の顔色を伺う今日のマスコミと対極にあり、真実を隠さずしっかりと伝えています。詳しい内容に関しては、本書を読むのが一番です。文庫本サイズで、一挙に読み通せます。それぞれの内容は、ここのサイトで今まで何度か取り上げています。・・・【トレーター技術】、【マッチポンプ企業】、【シュマイザー裁判】【農業の近代化】・・・これからも何度か取り上げようと考えています。安田節子氏のHPも積極的に参考にしていこうと思います。


この書評を書こうと思ったきっかけは、件の低評価の書評です。モンサントなど巨大アグリバイオ企業は、色々な場面で会社に都合の悪い事があると、ネガティヴキャンペーンを張ったりして、汚いやり方をするようです。だからこそ安田節子さんを応援します。この低評価の書評を逆に利用して、本書をもっと世に知らしめたいと思いました。
 また、それとは別に、これを機に、これからも時々書評を書いて行こうかと考えています。


 最後に繰り返しになりますが、以下の3冊
『遺伝子組み換え企業の脅威[モンサント・ファイル日本語版]』 
          (・・・安田節子さんはこちらにも関わっています。)
『タネが危ない』  野口勲著 日本経済新聞出版社
『自殺する種』 安田節子著 平凡社

は、どれも読みやすく3冊とも非常にお薦めの本ですが、一冊絞れ・・・と言うのであれば、私は『自殺する種』を推薦します。
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Comments 2

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guyver1092

絶賛暴走中

 現代のバイオ産業による種子が世界を席巻している様子は、私に、板皮類が世界の海を席巻した後、絶滅したのを思い起こさせます。
 板皮類はデボン期末になると、浅い海のほとんどを占めるほどの数でしたが、種類としては数種類ほどしかいなかったそうです。その原因は「それぞれの環境に高度に適応した結果、成功したモデルをよりより効率よく製造するために標準化していったのではないか」と考えられているそうです。これは環境が激変すれば対応できない、いわば非常にもろいあり方で、板皮類の絶滅の原因の一つではないかとのことです。
 つまりは何らかの少数の要素の変化で、世界中の食料が一気に激減する危険が高いということです。
 人類は将来を予測することが出来たので文明を発達させることが出来ましたが、破局を避けるために保険をかけることは(バイオ産業に頼らず種子の多様性を確保しておく)ことはなぜかできないようですね。

2013/07/13 (Sat) 22:54

雑草Z

Re:絶賛暴走中

    guyver1092さん

 毎度興味深いコメント有難う御座います。感謝致しております。
 さて、今回のコメントの
>、板皮類
とは、聞き覚えの無い名前でした。ネットで調べてみると、確かに古代魚として、辞典などで見た記憶がありました。
guyver1092さんは、随分とマニアックな知識をお持ちですね。
>絶賛暴走中
と言うタイトルも最高に面白いですね。脱帽です。

絶滅理由が、
>「それぞれの環境に高度に適応した結果、成功したモデルをより効率よく製造するために標準化していったのではないか」と考えられている

と言う御紹介の説を、今日の農業、バイオ産業に結びつけて考える発想に、なるほどと頷いてしまいました。

>破局を避けるために保険をかけることは(バイオ産業に頼らず種子の多様性を確保しておく)ことはなぜかできないようですね。

これは、人類が自家採種していたつい近年まではどこでも普通にやっていた事です。一部の強欲な輩が金の力で、多様性を壊してまで儲けたいと言うのが実情でしょう。

 関連して、この『自殺する種』には、一見不必要で持ってない方がいい特異的な遺伝子が生命継承に必要であると言う興味深い例も書かれていました。それは、鎌形赤血球症です。アフリカなどではこの遺伝子を持った人が多く、赤血球の形も鎌のような三日月形になって毛細血管などに詰まりやすく、重症の貧血を起こす病気だそうです。しかし、鎌形赤血球の人はマラリヤにかからないそうです。鎌形赤血球にマラリヤの原虫が入り込むと赤血球に穴があいて原虫が生育する為に不可欠なカリウムイオンが外に飛び出し、鎌形赤血球が自己破壊すると共に中の原虫も殺すそうです。何だかとても凄い話です。
 遺伝子の多様性は生命の継承に必要ですね。環境が大きく変化しても、誰かが持つ特異遺伝子によって生き延び、生命の継承が為されるのですからね。

このような事まで言及されている安田節子氏著の『自殺する種』は、頗る名著です。お薦めです。


2013/07/14 (Sun) 00:47
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
無理に経済成長させようとするから無理に沢山働かなければなりません。あくせく働いて不要なものを生産して破局に向かっているのです。不要な経済や生産を縮小して、少ない労働時間で質素にゆったり暮らしましょうよ!「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト。
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