雑草の言葉

成長の限界 [書評]

2014/03/17
書評 6
成長の限界 3部作
成長の限界 The Limits to Growth 1972年
限界を超えて Beyond The Limits1992年
成長の限界 人類の選択 Limits to Growth The 30-year Update 2005年


を全て読み終えての書評を書こうと思います。最初に購入したのは、最新の第3部『成長の限界 人類の選択』でした。2007年5月に、東京三省堂書店で、非常に気に入って購入しましたところ「成長の限界」の続編である事が分かりました。何度も読んだ名著『暴走する文明』と共に購入致しました。そして同じ年の10月に、第2部、『限界を超えて』を購入しました。これまた非常に名著だと感じているデヴラ・デイヴィス著『煙が水のように流れるとき』と共に購入致しました。振り返れば、どちらも、同時にかなり気に入って、その後繰り返し読む事となる、自分の中での不朽の名著と共に購入した事になります。
読書の遅い私は、実際に読み始めたのは年が明けた2008年1月で、考えた挙句、第2部の『限界を超えて』を先に読み、それが読み応え十分で、もっと読みたいと感じたので、引き続いて同じ1月に『成長の限界 人類の選択』も読み始めました。

元々の第一部、『成長の限界』は暫く購入しませんでした。理由は、当然この手の内容は新しい方がいいに決まっていると思ったからです。実際第一部は一番薄く,装丁も活字も古っぽく、あまり読む気になれませんでした。しかし一方、この第1部こそが発表当時、最も世界にセンセーションを巻き起こしたと思われ、かつ発表当初は第2部以下を作る予定でも無さそうだったので、歴史的意義と当初の内容がどうだったか、そしてよく言われる「『成長の限界』の予言は外れた」というような批判に関して、検証したかったから購入を決めました。・・・・続編を読んで感じていた事は、「予言が外れた」も何も、そんな予言はしていない筈だと思っていましたから・・・第3部を購入してから既にかなり経ちましたが今年の1月にやっと第一部を読み始めました。そして3月に2度目も読み終えました。

3部作を読んで改めて、「一冊だけ読むならどれを推薦するか?」と問われれば、最新の現状を踏まえて描き、シミュレーションも最新になった最新版の第三部『成長の限界 人類の選択』と答える事になると思います。しかし主張的には第1部の『成長の限界』でも殆ど変りませんから、現代人はどれか1冊は読む必要があると強く思います。そして、3部全て読む事もそれはそれで意義が深いと感じました。(枝葉末節的な事ですが、ちょっと皮肉に感じた事は、成長の限界3部作の本自体も、第一部から第2部、第3部と後になるにつれて段々と厚く、ページ数も増えて「成長」している点です・・苦笑。)

3部作3つ読んでの総合的な書評を書こうと思ったのですが、第2部と第3部は読んでから久しく、具体的な内容は忘れている部分もあるので、書評を書くには、もう一度読み直す必要があると思いました。なので、以下、今年になってから2度読んだ、第一部『成長の限界』の書評を簡潔に書かせて頂きます。

本書の前半は、「幾何級数的成長」に関して、これでもかとばかりにしつこく書かれています。「幾何級数的」という死語に近いわかりにくい言葉を用いたのは、原本を直訳したからでしょうが、「等比数列的」若しくは「指数関数的」と言った方が分かり易いでしょう。高校の数学程度で十分に理解可能な「等比数列的成長」を(読者を無知扱いするように)ここまで長くしつこく書かなければわからない事では無いと思いました。だから個人的には端折って読みたいと感じた一方、ここまでしつこいのも「あり」かとも思いました。何故なら世の中の「成長」はリニアな比例関係みたいなものは人工的なもの以外には殆ど無く、実際は次の成長が現在の量に比例する事による「等比数列的成長」をするのが理に適いますし、実際限界に近づくまでには指数関数的増加が普通に観測されます。(有限性を考えれば「ロジスティック関数」ですがその事に関してはまた別の機会に述べたいと考えています。)兎も角、「幾何級数的成長」が世の中を直ぐに「成長の限界」に導くという事が本書の主題でした。だからこの薄い第1部は、もっと薄くしようと思えば出来た筈です。本書はこの主題から、非常に重要な結論も導いています。それは、多くの人々がいまだに盲目的に頼りにしている、技術革新では、破局を防ぐというよりも、寧ろ単に破局の時期を少しだけ遅れさせるに過ぎないという結論です。シミュレーションでもその結果を示しています。この事を大きく評価できます。・・・ただ、残念な事は、この「先延ばしによって、解決策を模索する時間的余裕が生まれる」みたいなことも書かれています。個人的には、その時間的余裕は、問題を先送り、肥大化してもっと深刻な事態になる筈だと考えます。
原子力に関してもあまり否定的には述べていません。1972年の著作ですから、仕方が無いのかもしれませんが、「若しかしたら、エネルギー危機を救える技術になり得る」ような雰囲気にはがっかりです。先見の明がなかったようです・・・但し、放射能や放射性廃棄物のリスクに関しては言及しています。

本書は、1970年代に開発されていたシステム・ダイナミクスと言う方法によって、世界モデルを構築し、コンピュータ・シミュレーションを通して記述しています。システム・ダイナミクスとは簡単に言えば、構成要素各間の複雑な絡み合い、相互関係、フィードバック関係を考慮したモデル化です。現在はもっと進化して普及したコンピュータ・シミュレーションの方法かと思います。このコンピューター・シミュレーションの最も優れた点の一つは、定量的な記述だと思います。「成長の限界」では様々なシミュレーションを行ってはいますが、定量的な事に関しては、かなり慎重に記述されています。即ち、初期条件やシステムのパラメータで大きく変わるから、定量的な事は当てにはならない、結果として定性的な事に着目して欲しい・・・と繰り返されています。私も未来予測に関しては、定量的な事は当てにならないと散々指摘してきましたが、(CO2温暖化がその典型例です。) 実は本書が指摘している定性的な事は、コンピューターが無くても十分に予測可能です・・・と言うか、コンピュータに初期条件等を入力する段階で大体見えていた筈です。・・・人口や資本の「等比級数列的成長」は必ず破局を迎える・・・技術革新があっても、資源が現在の可採埋蔵量の数倍になろうとも、根本的解決にはならず、破局を数十年先延ばしするだけ・・・と言った結論は、コンピュータ・シミュレーションに頼らなくとも理性で考えれば明らかでしょう。
やはりコンピュータ・シミュレーションの大きな役割は定量的な事・・・と考えますが、現在のコンピューターですら定量的な未来予測は当てになりませんから、1970頃の全地球の世界モデルの定量的な事は確かに当てにならなかったでしょう。・・・それでもコンピューター・シミュレーションを主張の根拠にしたのは、人々の支持を得る為にテクノロジー神話に頼ったと言えるかも知れません。定量的な事に関しては殆ど断言を避けていますが、一つだけ繰り返し述べている定量的な予言らしきもの[推定]は、人類自らの意志による「成長の抑制」が無い限り
「今後100年以内に地球上の成長は限界に達し、人口と工業力の突然の制御不可能な減退が起こる」と言う事です。
この本が発表されたのは1972年ですから、今後100年以内とは、2070年までと言う事になりましょう。だから巷で批判されているような「成長の限界の予言は外れた」と言う書き込みなどは、まだ結論が出ていないので外れたとは言えません。言いがかりに過ぎないと言えましょう。
唯一、序論の扉に記された、当時の国連事務総長ウ・タントの言葉、
「軍拡競争の抑制・人間環境の改善・人口爆発の回避・および開発努力に必要な力の供与を目指して世界的な協力を開始するために残された年月は、おそらくあと10年しか無い、このような協力が10年のうちに進展しないならば、私が指摘した問題は驚く程度までに深刻化し、我々の制御力を超えるに至るであろう」
と言う1969年の発言が、外れた予言と言えるかも知れません。(・・『開発努力』は要らないどころか、逆効果かと思いますが・・・)しかしこれはあくまでウ・タント氏の引用であって、本書で「予言している事」ではありません。それにこれすら「外れた」とはまだ言えません。成長の限界の行き過ぎはシステム固有の遅延・・・例えば、化学物質の人間や動植物などへの影響は、化学物質が放出されてから、生体内に取り入れられて食物連鎖によって生体濃縮されて悪影響が出るまでにはかなりの時間的な遅れが生じます。・・・の為にもうとっくに人間の制御力を超えてしまっているのかも知れません。

『成長の限界』に対するもう一つのネガティヴな意見は、成長の限界をMIT[マサチューセッツ工科大学] 研究チームに依頼した「ローマ・クラブ」の存在です。
本書の最後に、「ローマクラブは1970年当時の会員数は約70名で、現に政府の公職にあるものは含まれず、いかなるイデオロギーにも偏せず、特定の国家を代表するものでもない。」
とありますが、このクラブの設立に大きな役割を演じたのは、ヨーロッパ財界の有力な国際派、イタル・コンサルタント社長であり、オリベッティ社の副社長・フィアット社の重役を兼任していた人物と記されていますから、財界主導の胡散臭さも感じます。更に、日本からは、東大教授・日本経済研究センター理事長・経済団体連合会会長・関西電力会長・東京電力会長・日立製作所会長・・・等がメンバーとして招請を受け、参加していたとのことですからかなり原子力ムラの主要構成員と似てます。「経済優先」策に走りそうな連中ばかりが主要メンバーです。彼らよりももっとまともなメンバーが構成員であったら、「幾何級数的成長の脅威」が現在もっと世界の人々の間に浸透し、もっと脱成長の方向に進んでいたかも知れません。そうならば残念な事です。
・・・しかし、その依頼先であったMITのチームは、当時、システム・ダイナミクスの研究が最も進んでいて、当時の最高レベルのスペックのコンピューターを使えた事でしょう。そして、MITのDennis L Medows 博士達の研究チームもいい研究をしたと感じます。その研究結果の報告にもなっている「成長の限界」は、理に適った非常にまともな「洞察・結論」を出しています。私は、本書に関して、これまでの議論では、色々文句も付けてきましたが、個人的な総合評価は全然低くはありません。40年以上も前に書かれた書物ですが、その理念は今も古くはなっておらず、私の評価は「不朽の名著」です。本書には、まだまだ「名言」や興味深い内容が書かれていますので、折に触れて紹介したいと考えています。
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Comments 6

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地下水

ワールド3

 私は子供用の地球のなおし方で、ワールド3のシミュレーションを見ましたが、やはり工業経済が等比級数的資産運用である限り、どの条件のシミュレーションでも今世紀中に、特に2060年頃からハードランニングせざるを得無い様です。
 工業による資源や地下水の枯渇と土壌汚染、工業的農業による森林資源の減少に伴う土壌の貧弱化が、裏の原因として続くからでしょう。
 エアコンと自動車の生産使用を制限し、建物の保温性を向上し、一子制の世界人口計画を施行し、広葉樹林を再生拡大して藻場を再生するなど、強い対策を世界に強いて、少しでも土壌汚染と破壊を和らげるしか無いようです。
 成長の限界は定量的に限界と対策の効果を明らかにした意義はありますが、地球白書の様に原因や対策の詳細を深めていない所に今後の課題が残ります。

2014/03/17 (Mon) 20:21

guyver1092

技術革新

 技術革新で出来た余裕を有効に使えば、確かに時間稼ぎにはなるでしょうが、人間の業と言うべきか、根本の対策は取られた例がほとんどありませんから(ティコピア島、日本が数少ない例)、おっしゃるように問題の肥大化にしかなっていないのは歴史の事実でしょうね。
 現代日本が、もっとも見えやすいですから、現在、問題が爆発寸前と感じます。感じているのは私だけではないでしょうが。
 MIT研究チームはやはり、学者という職業柄、技術に希望を持ってしまうのでしょうかね。

2014/03/18 (Tue) 20:29

雑草Z

Re:ワールド3

子供用の本、ビデオなどで、成長の限界を教える事は大切ですね。「子供には夢を与えたほうがいい」といいますが、実現不可能で文明を崩壊に導く「経済成長し続ける社会」を教え込む事こそ最悪だと考えます。そんな事を「夢」と教え込む社会は愚かですね。成長の限界を教えれば、夢が無くなるわけでもないし、しっかりした制限の中にも夢はいくらでも抱けますよね。

ワールド3は『成長の限界』で使用されたシミュレーションモデルですから、それが導く結論は『成長の限界』と同じですね。

>工業経済が等比級数的資産運用である限り、どの条件のシミュレーションでも今世紀中に、特に2060年頃からハードランニングせざるを得無い

例え技術革新があっても、新たに資源が開発されても、本文中にも書きました通り、それは限界を先延ばししただけで、根本解決にはなりませんからね。寧ろ問題の先送り、肥大化です。この事はシミュレーションしなくても理性でわかる部分でもありますね。ワールド3のシミュレーションならではの結論はやはり、

>2060年頃からハードランニングせざるを得無い

と言う定量的な部分でしょう。この事はしっかり受け止めるべきだと思います。

>エアコンと自動車の生産使用を制限し、建物の保温性を向上し、一子制の世界人口計画を施行し、広葉樹林を再生拡大して藻場を再生するなど、強い対策を世界に強いて、少しでも土壌汚染と破壊を和らげる

一刻も早くこのような政策にシフトすべきですね。アベノミクスのように「経済成長を再び」のような愚かな政策は、成長の限界に到達するのを早めるばかりの逆効果、最低の愚策です。

>成長の限界は定量的に限界と対策の効果を明らかにした意義はありますが、地球白書の様に原因や対策の詳細を深めていない所に今後の課題が残ります。


なるほど、貴重なご意見有難う御座います。成長の限界3部作では、それぞれに対策等も述べられていますが、確かに具体的では無いかも知れません。(世界全体を記述し、個別な具体策には触れない方針だと思います。)原因に関してもあくまで地球全体での概況ですが、マサチューセッツ大学の開発した同じワールド3のシミュレーション結果ですので、その内容の紹介の範囲とそれを受けての意見が異なるのだと思います。「地球白書」「地球のなおし方」も参考に読んでみた方がいいかも知れませんね。ご紹介とご意見、有難う御座います。

2014/03/19 (Wed) 06:41

雑草Z

Re:技術革新

現代人は、技術革新を誇大評価し過ぎる嫌いがありますね。

>技術革新で出来た余裕を有効に使えば、確かに時間稼ぎにはなるでしょうが根本の対策は取られた例がほとんどありませんから

>問題の肥大化にしかなっていないのは歴史の事実

そうなんですよね。おっしゃるように、技術革新によって、限界に挑戦するような無謀な事ばかりやって、明らかに問題を先送りし、肥大化しているのに、それが評価されているからぞっとします。その典型例が食料問題で、緑の革命など、最悪の例だと思いますが、関係者はノーベル賞などを貰っています。愚かな対策と言うだけでなく、利権なのでしょう。

>MIT研究チームはやはり、学者という職業柄、技術に希望を持ってしまうのでしょうかね。

いや、彼らよりもローマクラブのメンバー(財界人も含まれている)の中に技術革新に希望を持っている連中がいたように感じます。後書きのほうに書かれています。
私よりは、技術革新に希望を持っているとは思いますが・・(笑)
成長を止める事に対する各界からの批判を想定して、予測と言い回しは非常に慎重です。その結果コンピューターシミュレーションの結果を用いなくても理性で説明出来る記述が多く見受けられます。多数の人々に「正当な恐怖心」を持って貰う事こそ本書の役割だとも思うのですが・・・

2014/03/20 (Thu) 06:42

団塊親爺の遺言

不安を煽り 儲ける

全国の梅の樹が全滅 疫病とかウィルスとか?

家畜にも 変な病気が・・ 最近はこんなニュースが
聞こえて来ます 何か一つでも成長が有れば素晴らしい
社会に成っています 薬剤企業や政府は疫病とかウィルスが
原因とし対策に苦慮しています 今、解決策は無し・・

日本の農業のレベルはこんなものです

画一的な管理 それらを食べる私たち
食べるものも病気なら それらを食べなければ生きられ無い
私たちも同じです 車や電化製品の進歩は認めます

   しかし食べ物は 退化しています

もう薬剤無しの無農薬の食品は近くには見当たりません
ホルマリン漬けの様な 食べ物しか在りません
幼い子供たちは本能的に食べないものです

薬剤に負けないウィルスが蔓延り 打つ手がありません
薬剤メーカーと政府は結託し利益の分配です

今 無農薬や無肥料で作物を造る人が増えています

自然に任せる 自然の恵み 本当に旨い これが幸せ

こんな今の薬剤だらけの食べ物は要らない

自家採種の種 手に入りました 早速、撒いてと・・
これは 成長とかでは無く 当たり前の事ですよね 

  

2014/03/21 (Fri) 20:46

雑草Z

Re:不安を煽り 儲ける

    団塊親爺の遺言さん

 自家採種の種を手に入れたのですね!?昔は当然だった自家採種の種も最近は入手しずらくなりました。種は、固定種で自家採種が当然と考えられますが、それが難しい世の中ってかなり狂っていると思います。
団塊親爺の遺言さんはどこから自家採種の種を入手されたのですか?・・最近の大規模農家は殆ど自家採種はしないようですからね。細々と農業をやっている方からでしょうか?それとも家庭菜園をやっている方からでしょうか?何の種ですか?
大切に育てて是非とも自家採種して、繋いで下さい。
 かく言う私も、昨年、固定種の専門店、埼玉県飯能市の野口種苗店の固定種の種を買って来て蒔きました。自家採種はまだ成功したかどうかわかりません。昨年採種した種を植えてみないと・・・。
今年はミニトマトも固定種を植えますが、トマトの種は小さく、寒天質に覆われて、自家採種は難しそうに感じていましたが野口さんはトマトの自家採種は簡単だと言ってましたので、ちょっと安心しました。 

2014/03/22 (Sat) 23:20
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
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