雑草の言葉

リアルマネー;減価する貨幣が世界を破滅から救う

2014/11/11
Sustainability 11
ここの常連のguyver1092氏の3連載記事の最終回です。暴走する経済成長志向を、これまでとは全く違った観点・・貨幣のシステムの変更・・によって、脱しようと言う一見奇抜で難解な・・・しかし理に適う提言です。

ごく一部にしか知られていないのですが、シルビオ・ゲゼルという経済学者がいました。彼は実業家として成功しますが、国家の政策の失敗による経済混乱を見て心を痛め、後に、実業家としての体験を踏まえつつ経済学を学び、独自の経済理論を構築しました。その理論の中に「自由貨幣」があり、これは金本位制の経済政策の失敗による経済混乱をヒントに貨幣の機能につき考察し、貨幣制度の欠陥に対する対応策として提示されました。
彼は貨幣の機能として、交換機能、貯蓄機能、尺度機能があり、このうち交換機能と貯蓄機能が互いに衝突し、経済を混乱させていると考えました。この対策として考えられたのが減価する貨幣(自由貨幣)です。もう少し具体的に言うと、人間社会(文明)は、分業により効率よく資源を採取、加工をし、それを交換することにより成り立っています。そして交換をスムーズにするために交換の媒体として貨幣が発明されたのですが、貯蓄機能により貨幣を溜めてしまうと、交換が行われなくなり、社会全体への資源供給が滞り不況になるというものです。
減価する貨幣は、物質がエントロピーの法則に従い劣化する速度に合わせて価値が減少するように設計された貨幣です。目的は、お金の機能の内、貯蓄機能を取り去り、貨幣の死蔵を防ぐことです。有名なところで、オーストリアのヴェルグルという町で、世界恐慌時に利用され、経済の混乱から立ち直るのに役立ちました。
減価する貨幣を採用した社会はどのような社会でしょうか。
ヴェルグルの奇跡

上記のページによると、減価する貨幣は貨幣の量としては少なく済むようです。地域毎にその社会が必要とする資源の量に見合った最小限の貨幣額というものがあり、以前に準備した貨幣量・・現行システムの貨幣量・・は、資源に対して多過ぎたのでしょう。・・・これは人間が真に必要なものは貨幣ではなく資源であることを表していると言えるでしょう。
たとえば人が二人しかいない社会を考えてみれば明らかです。1人は資源のみ、もう一人は貨幣のみ所有しています。交換が行われないならどうなるでしょうか。貨幣を所有している者は最終的に飢え死にし、資源を持っている者は資源の再生産が出来る限り、生き続け、貨幣のない人と無主の貨幣が残るでしょう。
言い換えれば減価する貨幣は、資源(商品)の量と自然と一致すると考えられます。減価する貨幣を採用した社会は、インフレもデフレも無い、安定した消費の社会と考えられます。さらにヴェルグルの例では、人口の三分の一ほどもいた失業者とその予備軍がほぼゼロになり、インフラ整備も進んだところから資源の公平な分配もできる社会のようです。
減価する貨幣の社会では、なぜ経済が安定し、公平な分配のできる社会になるのでしょうか。ヒントは「ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか」p395あたりから紹介されているリッチとプアの実験です。さまざまな働きに対しての報酬がモノと貨幣の場合を比較した実験で、モノの場合は、異なる働きに対して、報酬が均等でも不公平とはあまり感じないのに対し、報酬が貨幣の場合、均等に分けると圧倒的に不公平と感じるとの結果です。被験者に対するアンケートでは、モノと貨幣では価値が違い、貨幣のほうがはるかに重要であるとの意見が圧倒的です。「モノは贈り物との側面がある。モノは賞味期限がある。食料を均等に配分するのは、コミュニティのなかで絆が深くなる。」等です。この実験の結果は、ゲゼルの炯眼を示す実験でもあるでしょう。減価する貨幣は人にとって、モノと同じである、又はモノの引換証であると認識されるからこそ経済の安定及び資源の公平な分配がされるのでしょう。減価する貨幣は人に、貨幣は資源価値の乗り物であることを理解させ、くだらない偽物の価値から脱却させるのでしょう。
その他に重要な相違は、減価する貨幣の社会では貨幣の貸し手と借り手の力関係が逆転するということがあります。【ゲゼルのロビンソンクルーソー物語】で論じられていますが、モノの場合は、時間とともに劣化していくのが当たり前ですから、あまった資金を借りてくださいとお願いすることになり、これは現在の社会では、お金を貸してくださいとお願いされるのと立場が逆ということです。この場合、金利ゼロで借りてもらえれば十分得ということになります。【定常社会の会計基準】にも書いたとおり資本主義は、貨幣的に見れば資本の拡大再生産を目指すシステムであり、商品的に見れば、より多くの物を消費させるためのシステムです。マイナス金利の減価する貨幣の社会では、資本の拡大再生産はできなくなり、資本主義は存在できない=成長しない社会になります。つまり、減価する貨幣を使用する社会にするだけで、罰金のように税金を取らず、猜疑心の塊となって社会を監視し、強権的にすべての人を押さえつけなくても定常社会が実現できるということになります。無理やり押さえつけていないので、物質(商品)のある範囲で柔軟に変化できる社会でもあるとも考えます。
さて、【定常社会の会計基準】で議論した「定常状態の社会システム、エントロピー発生の低い社会システム、自然環境の状態を財務諸表の何かに組み込む」は、減価する貨幣の社会ではどうなるでしょうか。定常状態の社会システムは減価する貨幣を採用すればそれだけで実現できると考えます。エントロピー発生の低い社会システムは、原材料の損失、売れ残り等を費用として売上から控除できないような会計・税の制度が考えられます。自然環境の状態を財務諸表の何かに組み込むについては、「エンデの遺言」P245で紹介されているヴェルグルで、人々が積極的に植林を始めたという事実を少し変えれば実現できると考えます。生きている樹木の引換証としての兌換貨幣を作ればよいのです。樹木は生きていますから成長します。その成長する分をプラス金利とし、更に自然環境を維持する分のプレミアとしての加算をしておくのです。木を切ってしまえば、自然環境分のプレミアは消滅し、成長しなくなったのでそこからマイナス金利とするのです。このように貨幣の一部を生きた生態系を表すものとすれば、財務諸表の資産の部に自然環境が搭載されることになります。
減価する貨幣の社会でも人がもっとたくさんの資源(商品)がほしいと願えば、手に入れた資源を使って資源を拡大再生産し、経済成長も可能でしょう。モノは使う、食べる等するものですから、限度はあるでしょうが、人の消費する資源が地球の容量を超えることはあるかもしれません。この回避策としては、エコロジカルフットプリントに応じて税金を増減させ、景気を冷やす方法が考えられます。また、樹木の引き換え貨幣を使う場合であれば、資産に一定以上の引き換え貨幣の蓄積を義務付ける等が考えられます。
減価する貨幣はヴェルグルの例からすると、導入までは難しいかもしれませんが、導入すれば人々の圧倒的支持を受け、文明崩壊への道から人類社会を救済することが可能と考えます。
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Comments 11

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雑草Z

単純化した思考実験で見えてくるもの

>たとえば人が二人しかいない社会を考えてみれば明らかです。1人は資源のみ、もう一人は貨幣のみ所有しています。

この思考実験は非常に有意義ですね。普段気付かない貨幣の本質を知らしめてくれます。
 2人が3人になり4人になってもみんな知り合いの閉じた世界で、・・・他の人々は食料なり衣類なりを生産しているとすれば・・・貨幣だけを生産し、貨幣しか持っていない人間は一番弱い立場でしょう。・・・と言うよりも、貨幣だけ生産している人間など、その小コミュニティでは不必要であり、相手にされないでしょう。
それが、不特定多数のマス-社会では、朽ちない貨幣を製造する銀行が、取引の間に入って利子を儲け、権力を手に入れるわけですね。即ち、銀行は、中間搾取業者と言う事になりましょうか。ある意味詐欺ですね。

 結局銀行は、お金の余った人が資本を合法的に増やす為に作ったからくりと言う事になりましょうか。
民間が貨幣を作り、政府紙幣でないところが納得のいかないところです。

2014/11/12 (Wed) 23:16

guyver1092

Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

 分業により文明社会になったのに、分業による交換の媒介物として発明された貨幣が、交換の邪魔をするということは、貨幣の性能が悪いということになると考えます。これは貨幣の持つ機能が内部に矛盾を含んでいるせいでしょうね。その性能の悪さに付け込み、収入を得、権力までも手にするということは、間違いなく搾取者ですね。中間かどうかは、私は疑問で、影の支配者という気がします。「資本を合法的に増やすからくり」は言いえて妙ですね。

2014/11/13 (Thu) 20:23

雑草Z

Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

>分業による交換の媒介物として発明された貨幣が、交換の邪魔をするということは、貨幣の性能が悪いということになると考えます。

なるほど、物と同様に腐らないお金は、貨幣の性能として優れているのでは無くて劣っていると言う事ですね!・・つまり
>貨幣の持つ機能が内部に矛盾を含んでいる

ですね。目から鱗です。

>中間かどうかは、私は疑問で、影の支配者

そうですね。私が「中間搾取」と表現したのは、物の交換の「中間、間」に入って、交換の度に搾取種るという意味です。銀行やお金の仕組みを自分達の利益誘導の為に作った連中は、確かに影の支配者ですね。…あまりにもずる賢い事をしているので、表舞台には出て来れないのでしょう・・・彼らが表舞台に堂々と出てくるような時代になったら世も末ですね。
【ヴェルグルの奇跡】は、「エンデの遺言」にも載っていましたが、あそこまで成功するとは予想外です。そして案の定、金融業の犬の政府にいちゃもんをつけられて止めさせられてしまいましたね。残念です。ヴェルグルの奇跡を再び起こすには、どうすればいいでしょうか?

2014/11/15 (Sat) 00:00

でなしNo.146

矛盾を抱えるお金。

>彼は貨幣の機能として、交換機能、貯蓄機能、尺度機能があり、このうち交換機能と貯蓄機能が互いに衝突し、経済を混乱させていると考えました。

私にもこの視点はすごく新鮮でした。交換機能と貯蓄機能に拮抗作用があるとは。

状況によってはあまり気づきにくい点だと思いますが、恐慌(不景気)になった時には問題が顕在化するわけですね。

実際、交換機能・貯蓄機能・尺度機能のどれも過剰(極端)な状態となれば拮抗しそうな気がしました。

そう考えるとお金って、矛盾の上に成り立った魔法のような存在なんですね。

また、
リンク先の記事も拝見しましたが、恐慌を脱するために地域で回せる公債のような「老化する通貨」を使用したというのは非常に興味深いです。

地域通貨もうまく利用していけば、より公平な分配と労働状況が実現できると思いますし、【ヴェルグルの奇跡】のような過去の事例を集めて検討していけば成功精度が高いシステムをを企画立案することも可能だと思いました。

2014/11/15 (Sat) 11:15

guyver1092

Re:Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

 ゲゼルは本当に炯眼ですね。エジプトとか、ブレクテアーテを知っていて、参考にしたかどうか興味のあるところです。
 中間について分かりました。交換の間に巧妙に入り込んでそれと分かないよう搾取していますね。
 減価貨幣を導入するのは、経済特区を利用するとよいのではないでしょうか。この場合、必要と感じることは、税金もこれで収められるようにすることではないでしょうか。地方税の額を超えた分は、地方交付税の交付をその分返上するとかすると政府も文句をつけにくいかもしれませんね。

2014/11/15 (Sat) 20:12

guyver1092

Re:矛盾を抱えるお金。

 私も初めて知った時は、目から鱗が落ちた気がしました。分配される商品は時間とともに価値が低下していき、最後には消費して無くなるのに、対価として支払われるお金が無くならないのは、本当はおかしいことです。矛盾の上に成り立つ魔法のようなものとは、お金の本質を表しているよう感じます。
 地域通貨として、減価する貨幣を地方公共団体の中で、税金も含めて利用する社会実験は必要なことと感じます。地方の政治家の誰かが、実験する価値を認めれば、特区制度を利用して大手を振って実験出来るのではないでしょうか。この実験を通じて、改良をしていく必要はあると考えます。

2014/11/15 (Sat) 20:25

雑草Z

Re:Re:Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

>減価貨幣を導入するのは、経済特区を利用するとよいのではないでしょうか。この場合、必要と感じることは、税金もこれで収められるようにすることではないでしょうか。地方税の額を超えた分は、地方交付税の交付をその分返上するとかすると政府も文句をつけにくいかもしれませんね。

当方で質問して置きながらなんですが、ここまで具体的な方策の御提案が為されるとは予期しませんでした。ここまでいいアイディアがあったとは驚きです。
 このような導入こそ、経済特区で実験してみる価値が十二分にありますね。それこそ、

>大手を振って実験出来る

ですね。勿論この減価貨幣の発酵主は、その特区のある地方自治体でしょう。これが上手く行けば政府紙幣の発行にも結び付けられそうですが如何でしょう?・・・日本銀行のような民間企業はあってはならないと考えるのですが。

2014/11/16 (Sun) 21:11

guyver1092

Re:Re:Re:Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

 経済特区は、国が認可をするようですので、過去のアメリカのように、地方分権の力が強すぎると言うことを理由に認可されない可能性もあります。また、経済特区の目的に合わないと言うかもしれません。
 この認可が下りないということならば、政府は日本経済の崩壊よりも、現在の支配者の儲けを優先しているということになるのでしょう。

2014/11/17 (Mon) 22:16

雑草Z

Re:Re:Re:Re:Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

よくある経済特区と言うのは、経済活動を活発にして、売り買いを増やす為のような、あんまりいいイメージは持っていませんでしたが、政府はそんな経済特区が好きなんでしょうね。

ヴェルグルの奇跡があるからこそ、政府は減価貨幣の導入に及び腰になるかも知れませんね。今の政府は、人々の生活よりも経済成長にプラスになる事を第一に考えそうです。

>地方分権の力が強すぎると言うことを理由に認可されない可能性もあります。また、経済特区の目的に合わないと言うかもしれません。

と言う事ですね。日本の官僚や政治家を見てもこのような事を言いそうな輩ばかりです。

>政府は日本経済の崩壊よりも、現在の支配者の儲けを優先しているということになるのでしょう。

ですね。
 

2014/11/18 (Tue) 22:26

guyver1092

Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

 経済特区以外では、やはり選挙ですね。選挙で地域通貨を活用し、経済のマイナスの波の防波堤にしようという考えの政党を育てて、地域通貨を合法化し、導入するのが一番確実と考えます。
 日本人がどこまで分かっているかが問題ですが。

2014/11/19 (Wed) 21:00

雑草Z

Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:単純化した思考実験で見えてくるもの

    guyver1092さんは、色々現実的な実現方法を考えていらっしゃいますね。

やはり選挙ですか。すると、脱経済成長を主張する団体でなければ難しいだろうと思いましたが、

>地域通貨を活用し、経済のマイナスの波の防波堤にしようという考えの政党

となれば、もっと現在一般的な政党にも可能性が無きにしも非ずですね。・・・とすると一番のネックはやはり黒幕の金融資本家、財界ですね。この辺りの強欲な連中に社会はスポイルされ続けてきましたね。

2014/11/19 (Wed) 22:05
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
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