雑草の言葉

風評被害じゃ済まない汚染水放出

2021/04/23
原子力 2
 4月13日、日本政府は、福島第一原発の汚染水を、貯蔵タンクの容量が限界に達しつつあるとして、再処理したうえで海洋放出することを決定しました。福島県の漁師をはじめ、数々の反対を押し切っての決定です。

 政府の説明では、海洋放出される処理水にはトリチウム以外の放射性核種はほとんど含まれていないとのことでした。その為、経済産業省は、わざわざ海洋放出の発表と同じ4月13日に、
『風評被害の防止を目的に、「ALPS処理水」の定義を変更します。今後は、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することとします。』
とHPを修正・更新しました。 [ 経済産業省HP
 
 「風評被害の防止を目的に」と謳っていますが、単にトリチウムの除去が無理だからでしょう。トリチウムは水素の同位体ですから、トリチウム水を水と分離することは非常に難しいことは明らかです。フィルターを用いたALPSで取り除くことは無理です。(質量の違いを利用した遠心分離くらいでしょう・・・かなりコストと手間がかかりそうです。)
 しかし、2018年に、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵されている汚染水には、トリチウム以外にも、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131などが規制基準以上に残っている事が発覚しています。政府と東電は、明らかに嘘をついていたのです。

 政府発表の翌4月14日の参院資源エネルギー調査会で、共産党の山添拓議員が問題を取り上げ、「(ALPSの)本格運転前の使用前検査すら終わっていない」と追及しました。原子力規制委員会の更田豊志委員長は「汚染水をいかに処理して貯留するかが非常に急がれた。使用前検査等の手続きは、飛ばしている部分があると思う」と認めました。[日刊ゲンダイ 4月16日号

 汚染水を浄化処理する多核種除去設備ALPS[Advanced Liquid Processing System]は、2013年に東電が導入後、現在まで8年間も「試験運転」のままだったのです。かなり酷い話です。
普通に考えて、8年間も試運転ってどう言う事でしょうか?長くても数ヶ月も試運転すれば、放射性核種を核種別にどのくらい除去できたかくらい確認できるでしょう。実は、放射性核種の除去が十分に出来なかったので、そのデータ(核種毎の除去量)に触れたくないだけではないでしょうか?つまり、ALPSは、性能に大きな問題があったって事ではないでしょうか?

 2011年3月の原発震災後、内閣総理大臣補佐官(東北地方太平洋沖地震による災害及び原子力発電所事故対応担当)に任命された馬渕澄夫議員は、福島第一原発サイト全体をバスタブのように地中壁で囲んで地下ダムを建設して遮断することを強く主張しました。普通に考えて、これがまともな方法でしょう。ここに数十年保存すれば、少なくとも半減期の短い放射性核種は殆ど無害化できたでしょう。半減期の長い重い元素はサイトの底に沈みますし・・この計画を止められたのは、「資本市場への混乱を招く」と東電が渋ったからです。つまり東電の株価が暴落して、会社が国の管理下になる事を恐れたからでしょう。あれほどの事故を起こしても社会的責任よりも、会社の存続を優先に考えた東電って、本当に良心の欠如した悪徳企業だと思います。(当時の社長・会長は確かに悪徳の人物のようでした・・)
(ちなみに、馬渕澄夫氏は、「東電の法的整理に踏み込む」と言ってましたから、非常にまともな政治家だったと思います。それで辞めさせられたのでしょうけれど・・残念なことです。)

 話を元に戻します。政府は、放出する汚染水を水で希釈するから安全だと言っています。何て馬鹿な事を言ってるんでしょう?海に放出すれば自ずと薄められます。薄めて放出することにどれだけの意味があるのでしょうか?
 確かに大気中と違って、海洋では放射性核種が拡散しにくく、長く海底に堆積するという問題も指摘されています。しかし、放出される放射性核種の絶対量が一番の問題なのであって、薄めて放出するのは、逆に拡散による危険性も増えます。被曝量を世界のみんなで分かち合おう・・と言うことでしょうか?
 確かな証拠はありませんが(研究させないのでしょう。)現在世界中でガンになる人が多いのも、核実験や原発事故などで、大気中の放射能が多いからだとも考えられています。福島第一原発から流れ出た放射性核種は(重い核種が多いので、早く海底に沈みますが)もうとっくに(2011年のうちに)アメリカ西海岸まで達しているでしょう。グローバル化が連呼されている今の時代、大気中だろうが海中だろうが、拡散させて薄める・・という方法自体、時代錯誤です。禁止にすべきでしょう。放射性物質処理の基本原則は、「拡散させない事」です。

 政府は2年後に「処理水」を海洋放出するとのことですが、「処理水」とは名ばかりの「汚染水」をただ薄めてどんどん垂れ流す事になるのでは無いでしょうか?日本国民だけでなく世界中から批判されるのではないでしょうか?近くの中国や韓国からのクレームも大きいことでしょう。

 
 最後に余談ですが、参院資源エネルギー調査会で、「(ALPSの)本格運転前の使用前検査すら終わっていない」と追及した共産党の山崎拓議員は素晴らしいと思います。そう言えば、福島第一原発事故よりも以前、第一次安倍政権当時の2006年に巨大地震による電源喪失で原子炉が冷却できなくなる危険性を指摘した吉井英勝議員も共産党でした(彼は京都大学工学部原子核工学科出身)。原発のことだけに限らず、共産党議員の調査能力は素晴らしいと思います。

さらにALPSの問題を唯一しっかりと報じた新聞、日刊ゲンダイは立派だと思います。一部で「正義のタブロイド紙」などとも言われているようですが、政府の発表をただ垂れ流す御用巨大マスコミと比べれば、非常に良心的です。忖度しないところも素晴らしいと思います。タブロイド紙の域を超えた、真実を報道する正義の新聞だと言えましょう。勿論、時々、大袈裟だったり間違えたりはするでしょうけれど、ダンマリを決め込む大手新聞とはジャーナリスト魂が違います。

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Comments 2

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guyver1092

自民党原発推進派

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/287910/2

 こういったページはすぐに消えてしまうので、内容をコピーしておきます。上記のページによると、自民党の原発推進派の議員の主張として「 自民党の「処理水等政策勉強会」の代表世話人・山本拓衆院議員がこう言う。

「断っておきますが、自分は原発推進派です。菅首相も支持しています。ただ、原発処理水に関する報道は、事実と異なることが多いので、国民に事実を伝えるべきだと思っています。東京電力が2020年12月24日に公表した資料によると、処理水を2次処理してもトリチウム以外に12の核種を除去できないことがわかっています。2次処理後も残る核種には、半減期が長いものも多く、ヨウ素129は約1570万年、セシウム135は約230万年、炭素14は約5700年です」 さらに「通常の原発でも海に流している」という報道も、誤解を招くという。

「ALPS処理水と、通常の原発排水は、まったく違うものです。ALPSでも処理できない核種のうち、11核種は通常の原発排水には含まれない核種です。通常の原発は、燃料棒は被膜に覆われ、冷却水が直接、燃料棒に触れることはありません。でも、福島第1原発は、むき出しの燃料棒に直接触れた水が発生している。処理水に含まれるのは、“事故由来の核種”です」(山本拓議員)」と紹介しています。この記事と同種の記事は、少なくとも、グーグルの拾ってくるニュースにはほとんどありません。拾うニュースは、安全なのに「韓国、中国が反対している」「韓国は自国はトリチウム水を放出していながら日本の放出に反対する」等、外国に対する反感と絡めて、トリチウムを含む放射性物質の環境への放出自体に関する考察及び、政府の「安全です」との主張を検証しているものは一つもありません。全く「マスゴミ」という蔑称にふさわしい行動です。
 癌の増加は、食生活の変化、平均寿命の延び等、他の要因が多くあり、放射線の影響を切り出すことが難しいというのはどこかで読んだことがあります。しかし、放射性物質の内部被ばくのメカニズムを考えると、絶対に影響はあるのでしょう。

2021/04/25 (Sun) 20:19
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 自民党原発推進派

guyver1092 さん
非常にいい汚染水処理の記事のご紹介有難うございます。これまた日刊ゲンダイの記事ですね!「タブロイド紙」的に扱われている「日刊ゲンダイ」が一番まともですね!
山崎拓衆院議員は、原発推進派にも関わらず、推進派にはかなり都合の悪い汚染水の実態をしっかり話していて、ある意味まともな自民党議員だと思います。

> 「通常の原発でも海に流している」という報道も、誤解を招く

など、全くその通りですね。しょうもないのは、マスコミに登場する学者にもそういう方々がいる事です。本当に「御用学者」ですね!

> 「ALPS処理水と、通常の原発排水は、まったく違うものです。ALPSでも処理できない核種のうち、11核種は通常の原発排水には含まれない核種です。通常の原発は、燃料棒は被膜に覆われ、冷却水が直接、燃料棒に触れることはありません。でも、福島第1原発は、むき出しの燃料棒に直接触れた水が発生している。処理水に含まれるのは、“事故由来の核種”です」(山本拓議員)」と紹介しています。

ここのところをしっかりと言わない大手マスコミは、本当にしょうもないと思います。仰るように
>全く「マスゴミ」という蔑称にふさわしい行動です。

>この記事と同種の記事は、少なくとも、グーグルの拾ってくるニュースにはほとんどありません。拾うニュースは、安全なのに「韓国、中国が反対している」「韓国は自国はトリチウム水を放出していながら日本の放出に反対する」等、外国に対する反感と絡めて、トリチウムを含む放射性物質の環境への放出自体に関する考察及び、政府の「安全です」との主張を検証しているものは一つもありません。

この報道を信頼している日本国民が多過ぎるようです。何故、事故を起こして、むき出しの燃料棒に直接触れた水が発生している「処理水」と通常の原発排水を同じだと考えるのか不思議です。疑問に思わない日本人が多過ぎますね。

> しかし、放射性物質の内部被ばくのメカニズムを考えると、絶対に影響はあるのでしょう。

トリチウム水と普通の水分子とは化学的性質は同じなので、分離出来ませんし、トリチウム水が放出するβ線を他の物質由来のβ線と区別できないので、トリチウム水が危険でないなどと言っている人が沢山いますが、もう少し勉強してから発言して欲しいものです。

2021/04/26 (Mon) 19:29
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
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