風評被害じゃ済まない汚染水放出
政府の説明では、海洋放出される処理水にはトリチウム以外の放射性核種はほとんど含まれていないとのことでした。その為、経済産業省は、わざわざ海洋放出の発表と同じ4月13日に、
『風評被害の防止を目的に、「ALPS処理水」の定義を変更します。今後は、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することとします。』
とHPを修正・更新しました。 [ 経済産業省HP ]
「風評被害の防止を目的に」と謳っていますが、単にトリチウムの除去が無理だからでしょう。トリチウムは水素の同位体ですから、トリチウム水を水と分離することは非常に難しいことは明らかです。フィルターを用いたALPSで取り除くことは無理です。(質量の違いを利用した遠心分離くらいでしょう・・・かなりコストと手間がかかりそうです。)
しかし、2018年に、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵されている汚染水には、トリチウム以外にも、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131などが規制基準以上に残っている事が発覚しています。政府と東電は、明らかに嘘をついていたのです。
政府発表の翌4月14日の参院資源エネルギー調査会で、共産党の山添拓議員が問題を取り上げ、「(ALPSの)本格運転前の使用前検査すら終わっていない」と追及しました。原子力規制委員会の更田豊志委員長は「汚染水をいかに処理して貯留するかが非常に急がれた。使用前検査等の手続きは、飛ばしている部分があると思う」と認めました。[日刊ゲンダイ 4月16日号]
汚染水を浄化処理する多核種除去設備ALPS[Advanced Liquid Processing System]は、2013年に東電が導入後、現在まで8年間も「試験運転」のままだったのです。かなり酷い話です。
普通に考えて、8年間も試運転ってどう言う事でしょうか?長くても数ヶ月も試運転すれば、放射性核種を核種別にどのくらい除去できたかくらい確認できるでしょう。実は、放射性核種の除去が十分に出来なかったので、そのデータ(核種毎の除去量)に触れたくないだけではないでしょうか?つまり、ALPSは、性能に大きな問題があったって事ではないでしょうか?
2011年3月の原発震災後、内閣総理大臣補佐官(東北地方太平洋沖地震による災害及び原子力発電所事故対応担当)に任命された馬渕澄夫議員は、福島第一原発サイト全体をバスタブのように地中壁で囲んで地下ダムを建設して遮断することを強く主張しました。普通に考えて、これがまともな方法でしょう。ここに数十年保存すれば、少なくとも半減期の短い放射性核種は殆ど無害化できたでしょう。半減期の長い重い元素はサイトの底に沈みますし・・この計画を止められたのは、「資本市場への混乱を招く」と東電が渋ったからです。つまり東電の株価が暴落して、会社が国の管理下になる事を恐れたからでしょう。あれほどの事故を起こしても社会的責任よりも、会社の存続を優先に考えた東電って、本当に良心の欠如した悪徳企業だと思います。(当時の社長・会長は確かに悪徳の人物のようでした・・)
(ちなみに、馬渕澄夫氏は、「東電の法的整理に踏み込む」と言ってましたから、非常にまともな政治家だったと思います。それで辞めさせられたのでしょうけれど・・残念なことです。)
話を元に戻します。政府は、放出する汚染水を水で希釈するから安全だと言っています。何て馬鹿な事を言ってるんでしょう?海に放出すれば自ずと薄められます。薄めて放出することにどれだけの意味があるのでしょうか?
確かに大気中と違って、海洋では放射性核種が拡散しにくく、長く海底に堆積するという問題も指摘されています。しかし、放出される放射性核種の絶対量が一番の問題なのであって、薄めて放出するのは、逆に拡散による危険性も増えます。被曝量を世界のみんなで分かち合おう・・と言うことでしょうか?
確かな証拠はありませんが(研究させないのでしょう。)現在世界中でガンになる人が多いのも、核実験や原発事故などで、大気中の放射能が多いからだとも考えられています。福島第一原発から流れ出た放射性核種は(重い核種が多いので、早く海底に沈みますが)もうとっくに(2011年のうちに)アメリカ西海岸まで達しているでしょう。グローバル化が連呼されている今の時代、大気中だろうが海中だろうが、拡散させて薄める・・という方法自体、時代錯誤です。禁止にすべきでしょう。放射性物質処理の基本原則は、「拡散させない事」です。
政府は2年後に「処理水」を海洋放出するとのことですが、「処理水」とは名ばかりの「汚染水」をただ薄めてどんどん垂れ流す事になるのでは無いでしょうか?日本国民だけでなく世界中から批判されるのではないでしょうか?近くの中国や韓国からのクレームも大きいことでしょう。
最後に余談ですが、参院資源エネルギー調査会で、「(ALPSの)本格運転前の使用前検査すら終わっていない」と追及した共産党の山崎拓議員は素晴らしいと思います。そう言えば、福島第一原発事故よりも以前、第一次安倍政権当時の2006年に巨大地震による電源喪失で原子炉が冷却できなくなる危険性を指摘した吉井英勝議員も共産党でした(彼は京都大学工学部原子核工学科出身)。原発のことだけに限らず、共産党議員の調査能力は素晴らしいと思います。
さらにALPSの問題を唯一しっかりと報じた新聞、日刊ゲンダイは立派だと思います。一部で「正義のタブロイド紙」などとも言われているようですが、政府の発表をただ垂れ流す御用巨大マスコミと比べれば、非常に良心的です。忖度しないところも素晴らしいと思います。タブロイド紙の域を超えた、真実を報道する正義の新聞だと言えましょう。勿論、時々、大袈裟だったり間違えたりはするでしょうけれど、ダンマリを決め込む大手新聞とはジャーナリスト魂が違います。

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