金持ちが天国に行く確率よりも・
勝木渥 著

一応上記の本の書評です。しかし、書評というよりも、学術書であろう本書に、「らしからぬ意外な」、「でも非常に面白い」ことが書かれていた事をご紹介する記事です。
本書は、2011年3.11原発大震災が起こる前の年の、2010年に、反原発の「たんぽぽ舎」に行って、槌田敦氏の講演を聴いた後、そこの方々と色々話をして夜遅くなった時に、泊めていただいた建物の書棚に置いてあった本です。その書棚から、好きな本を持っていって良いと言われて、頂いてきた3冊のうちの1冊です。
頂いてから、6年ほどして、一部だけ読んで、今年3月に改めて通して読みました。頂いてから12年ほど経てやっと通して読んだことになります。
先ずは本当に「書評」をごくごく簡単に書かせていただきます。
本書は、エントロピーと物質循環の観点から、環境・環境問題を論じています。「エントロピーと循環」と言えば、私の敬愛する槌田敦氏のオハコです。「エントロピー」「エントロピーとエコロジー」「「地球生態学」で暮らそう」・・・など、手に入る槌田敦氏のエントロピー関係の本は全て繰り返し読んでいます。
槌田敦さんの一般読み物的な本よりも、数式が多く、丁度、槌田敦さんの「熱学外論」と同じくらい数式を用いた学術書的な書物でした。
槌田敦さんの受け売りかな?・・とも思いました。そしたら、本書の最後に参考図書として、槌田氏の著書が挙げられていました。更に謝辞に、しっかりと「槌田敦氏に衝撃と呼びたいほどの刺激を受けた」等と書かれていました。
勝木渥氏は槌田敦氏と同世代のようで、親交もあるようです。槌田敦氏と共にエントロピー学会を設立された方のお一人なのかと思います。本書は、槌田敦氏の書物よりも、定量的なことなどは厳密に書かれている感じがして、槌田氏の著書の補完のような感じで興味深く読めました。でもやはり、槌田敦さんの著書の方が更に面白いと感じます。
・・と、ここで書評は止めておきます。最も書きたかったことは、以上のような書評ではなくて、以下の事です。
槌田敦氏の著書は、読みもの的な本はもちろん、学術書により近い『熱学外論』などでも、学術書らしからぬ私論や個人の哲学、情緒的な事が、ところどころに散りばめられていて、そこも興味深く面白いのです。
勝木渥氏の、『物理学に基づく環境の基礎理論』というかなり学術的なタイトルの本書も、槌田敦氏の本と同様に、私論や個人的哲学、情緒的な事が、所々に書かれていました。これも槌田敦氏の影響でしょう。
生物のみエントロピー増大則から免れると考えるような学者もいる中で、そのようなことを本書では「超自然的なこと」と否定しているのにも関わらず、非常に意外な、そして面白い「超自然的な」事が書かれていたのです。
抜粋します。本書155ページからの抜粋です。
「生命が発生する確率は、ラクダが針の穴を通るよりも、金持ちが天国に行くよりも、もっともっと小さなものでしかあり得ない。」

本書p155・・気に入ったので、マーカーで塗って、更に付箋紙まで付けました。
「金持ちが天国に行く確率」と比較しているところが、非常に意外で面白過ぎました。
金持ち(富豪ということでしょう。)が、天国に行く確率をここまで低く考えているとは・・・。
勝木渥氏は、金持ちはみんな、悪どいことをしてお金を稼いでいる、若しくは、強欲で無ければ金持ちにはならないと考えているのでしょう。
否定はしません。まあ、妥当な考え方かも知れません(笑)。槌田敦氏のように、物事の本質を見極める鋭い洞察力を持った方なのかも知れません。
槌田敦と同様に、環境科学に開放系の熱力学・エントロピーを導入した、理論の構築を目指した野心作に、このような一文を載せているのが、凄く意外で面白くていいです。そして、この一文だけは、槌田敦さんの書物を凌駕しているかも知れません。


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