雑草の言葉

金持ちが天国に行く確率よりも・

2022/04/23
書評 8
 物理学に基づく環境の基礎理論 ー冷却・循環・エントロピー 
                          勝木渥 著

物理学に基づく環境理論

 一応上記の本の書評です。しかし、書評というよりも、学術書であろう本書に、「らしからぬ意外な」「でも非常に面白い」ことが書かれていた事をご紹介する記事です。

 本書は、2011年3.11原発大震災が起こる前の年の、2010年に、反原発の「たんぽぽ舎」に行って、槌田敦氏の講演を聴いた後、そこの方々と色々話をして夜遅くなった時に、泊めていただいた建物の書棚に置いてあった本です。その書棚から、好きな本を持っていって良いと言われて、頂いてきた3冊のうちの1冊です。
 頂いてから、6年ほどして、一部だけ読んで、今年3月に改めて通して読みました。頂いてから12年ほど経てやっと通して読んだことになります。
 
 先ずは本当に「書評」をごくごく簡単に書かせていただきます。
 本書は、エントロピーと物質循環の観点から、環境・環境問題を論じています。「エントロピーと循環」と言えば、私の敬愛する槌田敦氏のオハコです。「エントロピー」「エントロピーとエコロジー」「「地球生態学」で暮らそう」・・・など、手に入る槌田敦氏のエントロピー関係の本は全て繰り返し読んでいます。
 槌田敦さんの一般読み物的な本よりも、数式が多く、丁度、槌田敦さんの「熱学外論」と同じくらい数式を用いた学術書的な書物でした。
 槌田敦さんの受け売りかな?・・とも思いました。そしたら、本書の最後に参考図書として、槌田氏の著書が挙げられていました。更に謝辞に、しっかりと「槌田敦氏に衝撃と呼びたいほどの刺激を受けた」等と書かれていました。
 勝木渥氏は槌田敦氏と同世代のようで、親交もあるようです。槌田敦氏と共にエントロピー学会を設立された方のお一人なのかと思います。本書は、槌田敦氏の書物よりも、定量的なことなどは厳密に書かれている感じがして、槌田氏の著書の補完のような感じで興味深く読めました。でもやはり、槌田敦さんの著書の方が更に面白いと感じます。

・・と、ここで書評は止めておきます。最も書きたかったことは、以上のような書評ではなくて、以下の事です。

 槌田敦氏の著書は、読みもの的な本はもちろん、学術書により近い『熱学外論』などでも、学術書らしからぬ私論や個人の哲学、情緒的な事が、ところどころに散りばめられていて、そこも興味深く面白いのです。
 勝木渥氏の、『物理学に基づく環境の基礎理論』というかなり学術的なタイトルの本書も、槌田敦氏の本と同様に、私論や個人的哲学、情緒的な事が、所々に書かれていました。これも槌田敦氏の影響でしょう。

 生物のみエントロピー増大則から免れると考えるような学者もいる中で、そのようなことを本書では「超自然的なこと」と否定しているのにも関わらず、非常に意外な、そして面白い「超自然的な」事が書かれていたのです。

抜粋します。本書155ページからの抜粋です。

「生命が発生する確率は、ラクダが針の穴を通るよりも、金持ちが天国に行くよりも、もっともっと小さなものでしかあり得ない。」
物理に基づく環境の理論155頁
本書p155・・気に入ったので、マーカーで塗って、更に付箋紙まで付けました。

 「金持ちが天国に行く確率」と比較しているところが、非常に意外で面白過ぎました。
 金持ち(富豪ということでしょう。)が、天国に行く確率をここまで低く考えているとは・・・。
 勝木渥氏は、金持ちはみんな、悪どいことをしてお金を稼いでいる、若しくは、強欲で無ければ金持ちにはならないと考えているのでしょう。
 否定はしません。まあ、妥当な考え方かも知れません(笑)。槌田敦氏のように、物事の本質を見極める鋭い洞察力を持った方なのかも知れません。
 槌田敦と同様に、環境科学に開放系の熱力学・エントロピーを導入した、理論の構築を目指した野心作に、このような一文を載せているのが、凄く意外で面白くていいです。そして、この一文だけは、槌田敦さんの書物を凌駕しているかも知れません。

 にほんブログ村 環境ブログ 循環型社会へ
にほんブログ村
関連記事

Comments 8

There are no comments yet.

あやとりばあさん

金持ちが天国に行く確率よりも

熱力学第二法則は50年ぶりに思い出しました。生き物の本質について、系の熱収支で説明がつくことに感動したのを覚えています。自分は死にゆきながら、子孫を残し次世代に繋いでいく、生き物の運命を納得できたのでした。
地球で生命を育む熱収支を、恒常的に保つ環境は、確かに奇跡的なものすごく低い確率なのでしょう。
そこまでは分かります。が、金持ちが天国に行く確率を例に挙げるのは違和感があります。なぜなら、わたしは金持ちも貧乏人も、何千万人殺した人も、何千万人救った人も、天国に行く確率は皆同じと思っているのです。
天国に行けるから善行をするのではなく、自分がやりたいからやる、報われなくてもやりたい。それこそが神からの自立と思うのです。
お気持ちはよく分かります。今まさに政治家は汚職改ざん当たり前、格差は広がるばかり、福祉は置いてきぼり、
金持ち地獄に堕ちろと言いたい気持ち、実はよくわかりますが、こればかりは、残念ながら、金持ちも貧乏人も皆同じ確率と思います。

2022/04/24 (Sun) 21:07
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 金持ちが天国に行く確率よりも

 HNあやとりばあさん様 、初のコメント有難うございます。とても興味深いコメントです。

 そんなに以前から、増大したエントロピーを環境に廃棄して、生物がエントロピー増大を免れている事をご存知だったようで、脱帽です。

 当方は熱力学的なエントロピーの定義式 S=Q/T は感覚的に捉え難く、統計力学の、状態数からのアプローチの方が遥かに合点がいき、好きでした。

〜それはさて置き・・・

 戦争も、一部の富豪の利権で起こされる事が多いと思われます。
もしも地獄というものがあるとしたら、戦争を起こして多くの人々を苦しめた人物は、地獄に落ちるでしょう。
 ロシアのウクライナ侵攻には、アメリカの軍産複合体の挑発もかなりあったようです。プーチンも(軍需産業のエージェントの)バイデンも地獄に落ちるでしょう。
 しかし、善悪は絶対的なものでは無く、人それぞれの立場で変わる主観的なものでしょうし、(あやとりばあさんさんのコメントも、そのような観点も含めたコメントに感じました。)もしも、「あの世」というものがあったとしても、天国と地獄に分かれて存在する確率は、ラクダが針の穴を通るよりも小さいのではないかと思われます。。と言うか、確率は論じられないでしょう。
 まともに議論すれば、金持ちが地獄に堕ちる確率など、計算も予測も議論も全く出来ないでしょう。
この本の著者の勝木渥氏は、そこを踏まえて、物理の学術書らしからぬ持論を展開している所が面白いと思った次第です。

2022/04/25 (Mon) 01:31

あやとりばあさん

野暮でごめんなさい

雑草Z様。あやとりばあさんです。

「まともに議論すれば、金持ちが地獄に堕ちる確率など、計算も予測も議論も全く出来ないでしょう。
この本の著者の勝木渥氏は、そこを踏まえて、物理の学術書らしからぬ持論を展開している所が面白いと思った次第です。 」

と言うのに、それも分からずまともに議論してしまってごめんなさい。

2022/04/25 (Mon) 18:45

guyver1092

真面目に生命の起源についてコメント

 つい最近のグーグルの拾ってきたニュースに、生命の起源についての新説があったので紹介します。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/040800160/?P=1

 酵素なしに解糖系反応(生き物の代謝の一部)が起こっているというものです。この事実は、金持ちが天国へ行く門を少し大きくしたのかもしれません。

2022/04/25 (Mon) 22:20
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 野暮でごめんなさい

いや、いや、まともな議論はそれはそれで興味深いですよ。
この本の著者 勝木渥氏は、もっと馬鹿馬鹿しい荒唐無稽な確率を長々と議論していて、脱力です。
ご紹介の「生命が発生する確率は・・・」
と言う一節は、本書の「宇宙と人間」という章に書かれているのですが、
その章の前の方には、「文明星の数の見積り」という議論があって、
銀河系の中の文明星の数nを見積もる「ドレクの式」というものを紹介しています。
銀河系の恒星の数 N≒4000億 に 色々な確率を掛けていって見積もるのですが、
例えば、 生物生存に適した惑星の割合とか、知的生物にまで進化する割合とか
山勘に近い確率の値を掛けていって、n≒1000万個 だとか n≒100個 だとか、
荒唐無稽な数値を紹介しています。(n≒1000万個の方は、1982年の朝日新聞にも紹介されたとか・・・)
この辺りの馬鹿馬鹿しい議論は、本書の価値を低めているように感じました。

 それに比べ、あやとりばあさん様の議論は、「うんうん」と頷ける内容でしたよ。

2022/04/26 (Tue) 06:59
☘雑草Z☘

☘雑草Z☘

Re: 真面目に生命の起源についてコメント

ご紹介の「 生命の起源についての新説」読ませていただきました。
試験管の中で代謝反応が起こるのなら、生命発生の確率のオーダーは何桁も上がるやも知れません。
guyver1092 さんのおっしゃるように、
>金持ちが天国へ行く門を少し大きくしたのかもしれません。
の通りですね。
ラクダが指で作った輪をくぐるくらいにまで、確率は拡大されたかも知れませんね!?
興味深い、そしてちょっと恐ろしさも感じる情報でした。

2022/04/26 (Tue) 07:07

金持ちが地獄へ落ちる確率

落語にもある、昔話「地獄からもどった男」について
娑婆で金儲けした3人が冥土の旅で出会い、閻魔大王のお裁きにより3人とも地獄のお釜へ放り込まれます。3人はお金はあったけど、人を楽しませたり、助けたりして悪事を働いたりしていないと思っています。
そこで3人でこの場を切り抜け(悪知恵ではない?)て、めでたし、めでたし。
閻魔大王の情報は巨視的それしか知り得ない、微視的世界に関する情報の欠如?
ズレてるなあ?!

2022/04/28 (Thu) 14:35

☘雑草Z☘

Re: 金持ちが地獄へ落ちる確率

その昔話は知りませんでしたが、悪事はしなかったと思っている3人ですね?
都合のいいように自己認識する人は多いでしょうから、そのような金持ちも沢山いるでしょうね。
でも、その3人は、その場を切り抜けたと言うことは、
閻魔大王も地獄へ落ちるほどの悪事は働いていないと認めたと言うことですね?

ところで、情報の巨視的、微視的
と言うのはエントロピーの熱力学的解釈と統計力学的解釈の違いという事でしょうか?
ここで、熱力学と統計力学の定義・解釈が出てくるとは、
全く予想だにしませんでした。

>ズレてるなあ?!

どうでしょう?

2022/04/29 (Fri) 07:19
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト、「経済成長信仰」と「科学技術信仰」とによって、飛行船地球号は破裂して墜落を始めるのも時間の問題。
あくせく働いて破局に向かって突き進むくらいなら猫のようにその日暮らしをする方がよっぽどいいではないですか。脱成長によってゆったり暮らすことができる社会の実現を!
にほんブログ村 環境ブログへ
書評